「動画がやっていることを、読書でやる」。そんなイメージですね。

スタートラインは「とにかく低く」設定すること

――本がそばにあること、そして途切れずにあることですね。

 そうです。あともうひとつ、本に手が伸びるポイントとして大切なことは「かんたんであること」。背伸びしないと読めない本なら、それはラクに見られる動画のほうがいいですよね。

 そもそも本をあまり読まない子ども、それまで本を読んでいたけれど動画に流れてしまって、遠ざかってしまった子ども……タイプはいろいろですが、読書の習慣化を設定、再設定するのなら、そのスタートは「レベル低め」であることが大切です。なんなら、これまで児童書を読んでいた子が絵本からスタートでもいいのです。子どもたちが大好きな動画も、本来のレベルより低いものを楽しんでいることが多いはずです。

――動画が大好きになってしまった子どもは、それだけでは本に戻ってきてくれるかどうか……。たとえば「3日間、動画は禁止ね」といったルールを設けてみるのはどうでしょう?

 家庭の方針によりますが、禁止するのは個人的にあまり建設的ではないと思います。なぜなら、子ども自身が「読書が楽しい」と心から思っていないのに本を読ませていたのでは、きっとどこかのタイミングで本を手放し、動画に戻っていくからです。「動画禁止」を聞いてくれる小学生のうちはいいのですが、中高生になると親の言うこともきかず、動画にどっぷり夢中という話は本当によく耳にします。

 まずは読書にハマれる環境を整えて、おもしろさがわかったうえで、あるいはそのおもしろさを知るために「ちょっと動画をセーブしようか」と声をかけてみるのはいいと思います。今の子どもたちは、一日のインターネットの平均利用時間が小学生で3時間半を越えているそうです。なにも、その全部を「本を読みなさい」というわけではありません。たった10分でもいいのです。

 とくに読書習慣を意識しだしたはじめのうちこそ、動画にルールを設けることはおすすめしません。だんだん読書が身についてきたら、自然と動画から離れる時間が増えていきます。

 大切なことは、子ども自身が「本が楽しい」ことを知ること。それで動画問題は一気に解決するのですから。そこで、次回は、子どもと本をつなぐ「正義」についてお話ししようと思います。

(取材・文/三宅智佳)

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笹沼颯太
笹沼颯太

Yondemy(ヨンデミー)代表取締役。筑波大学附属駒場中学・高校時代に英語の多読塾で指導を受ける。東京大学経済学部経営学科に進み、3年生で中高時代のスキルを活かして友人3人と読書教育サービス「Yondemy」を設立。起業や会社の経営、営業、運営のすべてを「本から学びました」と語る24歳。

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