子どもが思春期を迎え、反抗期ともなると、乳幼児期の子育てとはまた違う「つらさ」を感じる親御さんも多くなります。子どもに何か「問題」が起きれば「親である自分がちゃんとしていないから」と自分を責めてしまうこともあるかもしれません。児童精神科医であり、2人のお子さんを子育て中のさわさんが、不登校になり家で荒れている中学生の娘さんの親御さんに伝えた言葉とは? 精神科医さわさんの著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)からご紹介します。

 あるとき、不登校の女子中学生のお母さんが診察室にいらっしゃいました。その女の子には発達障害があり、反抗期ということもあって、家で荒れていました。お母さんは学歴も高く、国家資格の中でも難関とされている資格を持つキャリアウーマンで、これまでバリバリ仕事をされてきて、自分の人生を自分の努力で積み上げてきたタイプの方でした。

 ただ、ご主人は子育てに無関心で、夫婦仲もよくありませんでした。お母さんは子どものために自分の仕事もやめて、子どもの問題を1人で抱え込んでいたのですが、警察を呼ぶくらい娘が暴れるようになり、弟にまで手を出すようになって、ついにお母さんがクリニックに相談に来られたのです。

 お母さんの話を聞くと、父親の無関心、夫婦の不仲、その子のもともと社会に適応しにくい特性など、さまざまな要因に加えて、当時行かせていた受験塾やピアノ教室が厳しすぎたため、娘さんにはそのストレスもあったようです(受験は娘さん自身が決めたことだったのですが)。

 娘さんは昼夜が逆転して夜通しゲームをする生活で、機嫌が悪くなると叫びながら物を投げて、部屋で大暴れ。お母さんは、その音や声を聞いているだけで気が滅入ってしまうと言い、「もう人生真っ暗」というように、すっかり絶望していました。

 そして、娘が荒れているのは母親として自分がしっかりしていないからではないか、子どもをちゃんと見ていないからこうなったのではないかなどと、自分を責めていました。私自身も長女が学校に行けなくなったときに、自分がダメなせいだと思っていたこともあったので、その気持ちは痛いほどよくわかりました。

 ただ、やはりお母さんが絶望や不安を感じていると、子どもというのはお母さんの不安な気持ちをとても敏感に感じとり「お母さん、私のせいで楽しそうじゃないんだ」と思い、ますます荒れてしまうというような負のループになってしまうのですよね。

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精神科医さわ
精神科医さわ

児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。1984年三重県生まれ。開業医の家庭に生まれ、薬剤師の母親の英才教育のもと、医学部を目指す。偏差値のピークは小学4年生。中高時代は南山中学校高校女子部で落ちこぼれ、1浪の末に医学部へ。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。母としては楽しみにしていた子育てだったが、発達特性のある子どもの育児に身も心も追いつめられ離婚し、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れる。クリニックを受診した患者さんのお母さんたちからは、「悩みが解決し、まず自分が安心すればいいんだと思いはじめてから、おだやかにすごせるようになった」「同じ母親である先生の言葉がとても心強く、日々のSNS発信にも救われている」と言われている。「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と診察室で涙を流す患者さんも。開業直後から予約が殺到し、現在も毎月約400人の親子の診察を行っている。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。2023年11月医療法人霜月之会理事長となる。

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