それがお母さんの心に余裕ができて、見方が少しずつ変わってきたのです。すると、少しずつ娘さんの態度も変わってきたそうです。娘さんも暴れることが減ってきて、弟さんも自由に自分のやりたいことをやれるようになって、家の中が平穏を取り戻してきたのです。今ではクリニックに来られることもなくなり、おだやかにすごしていらっしゃるようです。

 親というのは、「子どものために」と熱が入りがちです。ただし、ここでも忘れてはならないのは、子どもが成長していく根底には、なによりも安心が必要だということ。とくにお母さんが笑っていてくれると、子どもは「自分はここにいてもいいんだ」という安心感を得られるものなのです。

 ご飯や住む場所を与えられるという物質的な豊かさも大事だけれども、子どもに安心や安全などの精神的な充足感を与えることは、もっと大切です。子ども時代を安心できる家庭ですごすことで、少しずつ社会の中で安全な居場所を見つけることができる、自分の世界を広げていくことができる、それが本当の意味での自立ではないでしょうか。

 もしも親に役割があるとしたら、やはり子どもにとって一番安心できる存在になるということに尽きると私は思っています。

※著書『児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること』(日本実業出版社)からご紹介します。

児童精神科医が「子育てが不安なお母さん」に伝えたい 子どもが本当に思っていること

精神科医さわ

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精神科医さわ
精神科医さわ

児童精神科医。精神保健指定医、精神科専門医、公認心理師。1984年三重県生まれ。開業医の家庭に生まれ、薬剤師の母親の英才教育のもと、医学部を目指す。偏差値のピークは小学4年生。中高時代は南山中学校高校女子部で落ちこぼれ、1浪の末に医学部へ。藤田医科大学医学部を卒業後、精神科の勤務医として、アルコール依存症をはじめ多くの患者と向き合う。母としては楽しみにしていた子育てだったが、発達特性のある子どもの育児に身も心も追いつめられ離婚し、シングルマザーとして2人の娘を育てる。長女が不登校となり、発達障害と診断されたことで「自分と同じような子どもの発達特性や不登校に悩む親御さんの支えになりたい」と勤務していた精神病院を辞め、名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開業。老若男女、さまざまな年代の患者さんが訪れる。クリニックを受診した患者さんのお母さんたちからは、「悩みが解決し、まず自分が安心すればいいんだと思いはじめてから、おだやかにすごせるようになった」「同じ母親である先生の言葉がとても心強く、日々のSNS発信にも救われている」と言われている。「先生に会うと安心する」「生きる勇気をもらえた」と診察室で涙を流す患者さんも。開業直後から予約が殺到し、現在も毎月約400人の親子の診察を行っている。これまで延べ3万人以上の診察に携わっている。2023年11月医療法人霜月之会理事長となる。

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