もしフランスの学校だったら、絶対に同じ内容にはならなかったと思う。わたしは自分が受けた小学校の算数の授業をよく覚えているけれど、先生によって教える方法が違っていた。足し算・引き算を教えるとき、小学2年生の先生はアメ玉を使っていた。「10個のアメを持っていて、1人の友達にあげたら、手元には何個残る?」と質問する。具体例があると、子どもはすぐに理解するのだ。また、算数の専門講師だった他の先生はお金を使って計算させていた。

 教科書にある例ではなく、それぞれの先生が考えた例を使うため、おのずと授業はクラスによって変わる。もちろんフランスにも学習指導要領はあるし、1年生を終えるまでに達成すべきゴールはある。でもその道のりは決まっていない。先生が授業をアレンジし、教科書とは関係のないことも学ぶ。教科書を使わない先生もいる。

「ひらがな」は非常に優れた文字

 フランスと日本の学校の小学1年生の科目で、最も違いが大きいのは国語の授業だろう。つまり、フランス語と日本語の授業だ。

 日本の公立小学校へ通う息子の教室の壁には「勉強のルール」のポスターが貼ってある。そこに、「漢字がわからなければ全部ひらがなで書いてもいい」という一文があった。これは日本語の特徴をよく表している。何かを書きたいと思ったとき「漢字がわからないから」とあきらめてしまったら残念だが、「ひらがなでもOK」だったら書ける。

 ひらがなは非常に優れた文字だ。発音がわかれば、漢字を知らなくても文章を作れるのだ。子どもたちは4歳頃から手紙を書ける。フランス人の4~5歳の子がフランス語を読んだり書いたりすることは稀だ。だからこそ、日本語とフランス語を同じように教えることはできないだろう。日本では正しく覚えることを重視している。フランスでは正確さはもちろん重要だが、自分で表現することを重視している。漢字はくり返しくり返し手で書いて覚える。小1では1日4文字のペースで学び、1年間で200文字を学ぶ。なかなか速いペースだ。そして小学校を卒業するまでに2000文字というように、具体的な目標によって学習が進む。

 ちなみに、大人になってからの漢字学習は、子どもの頃とは別のアプローチが必要だ。「この漢字を30回書いてください」と言われたら、とても我慢できない。大人の漢字学習のポイントは、なんといっても必要性だ。わたしも自分の住所は引っ越し当日に漢字で書けるようになった。書く必要に迫られたらすぐ覚える。必要ないと思ったら一向に覚えられない。だから今もほとんどの漢字は読めるしパソコンでは書けるけれど、手では書けない。

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