これは、簡単なように思えて、人付き合いをしていくなかではとても難しいこと。息子のプライドが高いこともわかっていたはずですが、プライドを傷つけることなく、「次は大丈夫でしょ」「次のステージではうまくいくよ」と楽観的な姿勢を貫いていた。子どもの自己肯定感を大切にしながら、うまく伸ばしていったんですね。本人に自覚はないかもしれませんが、お母さまのそうした姿勢が、彼の成長を後押ししたと思います。
「たかが中学受験」と思えるくらいの心の余裕も時には必要
――中学受験にこだわりすぎず、常に次を見すえていたのですね。
いま、うちの塾でアルバイトとして指導してくれている様子を見ていても、彼は「できない」「わからない」という生徒に対して圧倒的に優しいです。丁寧に説明したり、なぜそれがいま必要かをわかりやすく説いたり……。それは、中学、高校、大学と何年にもわたり受験勉強を続け、ときに大きくつまずき、プライドと折り合いをつけながら身につけていった優しさなんだと思います。それぞれの段階で自分の成長のレベルにあった学校に行き、親御さんを含め、一つ一つの選択を否定しないで次に進めたことも良かったと思います。
中学受験に必要以上に価値を見出したり固執したりする必要はないですし、ゴールではなく通過点ととらえていたほうが、きっとその後も前向きに勉強を続けていけると思います。「中学受験」と「競争意識」は切っても切り離せないものなので、有名校や偏差値の高い学校に進学したら、そこで「自分は特別だ」という感情が芽生えてしまう心理はわからなくもないですが、そうした思いが強すぎるあまり、子どもたちが学校を「ブランド」としてとらえるようにはなってほしくないな、と思います。
中学受験を見守る保護者には「たかが中学受験」と思えるくらいの心の余裕が必要ですし、学校名という看板をはがしたときにどうなのか、という視点は常に持っていてほしいと感じています。
(聞き手/古谷ゆう子)