安浪京子さん

安浪:だから受験生の親でもあまり受験一色にならないほうがいいと思います。よく子どもが受験だから美容院に行く時間もないとか、お酒が好きだけど受験が終わるまで断ちます、とおっしゃっている親御さんがいますが、どうぞ美容院に行ってください、お酒も飲んでください、って言います(笑)。それこそ子どもにとってプレッシャーになりますから。一人でちょっとカフェに寄ってみる、でもいいのですが、一人でゆっくりする時間も取らないと内省もできないと思うんです。もちろん、受験生の親として全てをなげうってやります、というアスリート家庭で、親も子もそれを求めているならそれはそれでいいと思いますが。

犠牲にすることと努力することは違う

矢萩:何かを犠牲にすることと、努力することは全然違うことですからね。何かをやるためには何かを引かなければならない、というデジタルに考えすぎなところもあると思います。もちろん、時間は有限のリソースですから単純に時間数で割り当てるならそうなりますが、やる気や集中力がなければ有効に生かせません。本当にそれは削らなければいけないものなのか、それを我慢しないと努力できないものなんだろうか、ということをいったん立ち止まって考えたほうがいいと思います。モチベーションやメンタルを保つことをちゃんと意識して優先しないと崩れがちになりますから。

安浪:以前、私のVoicyリスナーからのコメントであったんですが、受験生もいて、下に小さいきょうだいも抱えてワーッてなっていたら、旦那さんが「今日は子どもを全部僕がみておくから、ちょっと一人でゆっくりしておいで」と時間をプレゼントされた、というお話があったんですね。それでお母様もいろいろと見つめ直す時間が取れたとおっしゃっていて、いいプレゼントだな、と。中学受験は、夫婦どちらもがっつり関わる場合もあれば、一方がリードしてもう一方が他方をサブ的にフォローするという場合もあります。もしお母さんがメインで中学受験に関わっていたら、世のお父さんたちはお母さんが一人になれる時間を作ってあげてほしいです。そこに「少ないけど…」とお小遣いまであれば完璧ですね(笑)。「俺の時間も欲しい」と思う旦那さんもいると思いますけど、小学生はやっぱりママに笑っていてほしい。

矢萩:それ、いいですね。一緒に過ごすにせよ、別々に行動するにせよ、自分のために時間を作ってくれるのは一番うれしいですよね。どんなに忙しくても自分にとっての意味やモチベーションを確認したり、メンタルを立て直す時間を作ったりすることはとても大事だと思いますよ。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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安浪京子 矢萩邦彦
安浪京子 矢萩邦彦

安浪京子(やすなみ・きょうこ)/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験にチャレンジするきみへ 勉強とメンタルW必勝法』(大和書房)。

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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