2020年夏、長野県・上高地のキャンプ場で、女性が就寝中にクマに襲われた。女性を襲ったクマはその後どうなったのか、キャンプ場ではどんな再発防止策がとられているのか――。3年ぶりに現地を歩いた女性がリポートする。
【実際の写真】生々しい現場。クマに荒らされた女性の荷物* * *
私がクマに襲われたのは3年前の8月8日深夜。山仲間とともに行った上高地・小梨平のキャンプ場で、ソロテントで寝ていたときのことだ。
テントごと引きずられてトイレの裏まで運ばれ、テントを引き裂かれ、爪で足をひっかかれ、右膝外側に傷を負った。死を覚悟し、気を失ったが、気づくとあたりが静かだったため、体を起こして、トイレに逃げ込んだ。その際、大きなクマがぬいぐるみのようにおすわりしている姿を見たような気がした。
その後、上高地の診療所から松本の病院に救急車で運ばれ、縫合手術を受け、翌日帰京。幸い、数針縫う「軽傷」で済んだが、医師に「血管が切れていたら、死んでもおかしくなかった」と言われた。
食べ尽くされたレトルトカレーやナッツ
そのような状況だったので現場を見に行くことはできなかったが、キャンプ場に残った仲間が私の荷物を回収し、襲撃後の道具類の写真も撮ってくれた(写真1)。レトルトご飯やレトルトカレー、ナッツや菓子などパックされた食料は、それぞれ上手にむかれ、なめるようにきれいに食べ尽くされ、ペットボトルのスクリューキャップも開けられていた。ただし爪が刺さって容器に穴が数カ所、開いていた。せっかくふたを開けたのに、穴から飲料がもれてしまい、あれ?と思ったことだろう。ゴミは1か所にまとめられ、ザックで覆い隠されていたという。なんともマナーがいい。
そのクマは、実は前日も人のいるテントから食料を奪っており、私が襲われた当日も複数の有人テントを襲っていたことが、あとでわかった(人身事故は私のみ)。それ以前に同じクマと思われる個体が、夜間、ゴミ箱をあさる姿も監視カメラに収められており、人がもつ食料の味を覚えてしまった「餌付けグマ」の存在は把握されていた。だが、キャンプ場では、ボランティアでクマの監視を依頼していた研究者のアドバイスもあり、クマが人を襲うことは想定していなかったという。危機管理が甘かったと言わざるを得ない。