襲ったクマは推定体重170キロ

 クマが撃たれた場所は、観光客でにぎわう河童橋のすぐ裏手だった。はっきりした場所はわからないが、森に向かってしばし黙祷した。推定体重170kg、頭胴長1.4mの堂々たるオスグマで、死体はブルーシートに載せて6人がかりで運んだという。

 このクマの「食性履歴」が論文になっていることも、今回、初めて知ったhttps://www.pref.nagano.lg.jp/kanken/johotekyo/kenkyuhokoku/hozen/documents/kh17_1.pdf。論文によると、クマは推定年齢21歳前後の老体で、胃からは、捕獲直前にあさっていた冷凍庫にあったアップルパイの敷紙と考えられるアルミ箔が大量に見つかった。体毛の状態などから、事故直前の数週間前から人為的な食物を摂取するようになり、栄養状態が急に良くなっていたことも明らかになった。

  環境省上高地ビジターセンターでは、現地のクマの生態を知るレクチャーが、夏季は毎日開かれており、そこにも参加した。

クマの生態を学ぶためのレクチャーの案内

 クマは冬眠から覚めたあと春から夏の間は、ずっと低栄養の状態が続き、秋に木の実を食べることでようやく栄養状態が良くなるのだという。そんななか、人間の食料はクマにとって麻薬のような存在で、いったん手軽に高カロリーのものが得られることがわかると、やめられなくなってしまうのだという。クマのすみかに人が安全に入らせてもらうためには、餌付けグマを出さないことが何よりも大事だということが、よくわかった。

「3年前の事故以来、餌付けグマは1頭も出していない」と、レクチャーを担当する香取草平さん(自然公園財団上高地支部)は胸を張って答えてくれた。現在、尾瀬でもクマ対策が問題になっており、先進例として上高地に問い合わせが来るそうだ。

 事故後、しばらくの間、クマ撃退スプレーを持たないと山に入れなくなっていたが、山にすむツキノワグマは餌付いていない限り、過度に恐れることはないと思い、今回はクマよけスプレーをテント場に置いて山行を楽しんだ。

(川名真理)

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