「忘れ物をするから塾の持ち物は親が用意する、なくすから家の鍵を渡さないなど、『うちの子はできないから』『絶対失敗するから』と、つねに先回りしてしまう例は少なくありません。でもまずは子どもを信頼してあげましょう。『うちの子ならできるはず』と考えてみてください」

 子どもは信頼されてこそ応えようとするし、たとえ失敗があってもそこから学び、自分で考えて行動できるようになるという。

 日頃の会話にも、信頼関係を築くコツがある。例えば、子どもが「塾をやめたい」と言ったときにどうするか。「せっかくここまできたんだから頑張りなさい」と正論を言いたくなるが、頭ごなしに押しつけても伝わらない。むしろ「何を言っても仕方がない」と思われてしまう可能性もある。大事なのは子どもの気持ちを受け止めること。そして「どうしてかな?」と聞いてあげること。こうすることで、子どもの言葉も引き出しやすくなるという。

「子どもは『塾はつまんないもん』とか『みんなと遊びたいし』など、未熟なことを言うかもしれません。でも、あくまでも大切なのは聞いてあげるということなのです。『つまんないのね、みんなと遊びたいのね』とオウム返しをして、子どもの思考を泳がせてあげてください」

 そこで本人から「もうちょっと頑張ってみようかな」という答えが出てくればそれでよし。保護者の言葉に誘導されて我慢するよりも意味があるだろう。あるいは本当につらくてやめたいというのなら「親としてその気持ちを受け止めてあげて」と成田さんは語る。

「親子の信頼関係は、毎日の何げないやりとりで一歩一歩築いていくものなのです」

 合否にかかわらず悔いのない中学受験にするためには、回り道も必要なのかもしれない。

成田奈緒子さん:神戸大学医学部卒業。医学博士。小児科医として臨床経験を積み、発達脳科学等の研究を積んだのち、文教大学教育学部教授、子育て支援事業「子育て科学アクシス」代表に。著書に『高学歴親という病』(講談社)ほか。

※AERAムック『偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び2024』より

(文・AERAムック『偏差値だけに頼らない中高一貫校選び』編集部)

偏差値だけに頼らない 中高一貫校選び 2024 (AERAムック)

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