6シャドーイングがうまくできません
音声のすぐ後を追いかけるように、反射的に発話する「シャドーイング」は、「文法中枢」を封印することになり、同時通訳などの上級者向きで、初心者にはお勧めできません。正しくない発音が定着する恐れもあります。脳から見れば言語と音楽は同じ。ショパンの曲を演奏する時に、初心者にプロと同じ速さで練習させるのは不自然ではありませんか?
7「視覚的イメージの力」を使った学習は効果的?
非常に効果的です。北京大学で会った日本語を流暢に話す学生は、たった1年で日本のアニメから習得したそうです。アニメや映画から具体的なTPOを知れば、場面に合う表現ができるようになります。同時通訳者も英語を聞き(入力)、どんどん想像して場面設定していく一方で、日本語で中継するように発話(出力)します。イメージには何語もありません。
8英語を読むときの「後ろから訳す癖」をなくしたい
普段から意識的に英語の語順通りに前から、細かいことは気にせず読み続ける習慣をつけることです。その際、頭の中で「この先はこうなるのかな?」と想像しながら読みましょう。文全体の流れを読み取れるようになると、次第に見通しが立って楽に読めるようになります。この感覚を身につけると、話す時も同じように英文が作れるようになっていきます。
9「動詞」を極めると上達するって本当?
動詞を「文の核」と考え、言いたいことを形にしていくことが大切です。チョムスキー理論では、動詞のtense(時制)が命です。現在形か、過去形かをまずは考える。現在の時制に完了形を加えた方がしっくりくる場面も多いです。言葉に詰まったら接続詞などでつなぎ、動詞に意識を向けて文を組み立てながら他の語彙を探せば、話しやすくなるでしょう。
10英語習得には個人差がありますよね?
海外の人が日本語を習得するのを速く感じるのは、音声から入るからです。日本語はひらがなやカタカナだけでも100字近くあり音声から入らざるをえない状況があるからでしょう。外国人力士が日々の生活や修業の体験から赤ちゃんのように日本語を身につけていくように、自然な習得を目指せば、個人差など気にならなくなります。
■酒井邦嘉/東京大学教授1964年、東京都生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。ハーバード大学医学部リサーチフェロー、マサチューセッツ工科大学客員研究員などを経て、2012年から現職。『言語の脳科学』(中公新書)、『チョムスキーと言語脳科学』(インターナショナル新書)、『勉強しないで身につく英語』(PHP研究所)など著書多数。
(文・曽根真遊)
※『AERA English2023』から抜粋して紹介、『AERA English特別号「英語に強くなる小学校選び2024」』(2023年7月刊予定)でも英語教育に関するインタビューを紹介。
朝日新聞出版