入力された情報を分析・解釈し、「どうしたら相手に伝わりやすいか」などと思考し、文の組み合わせを生成し、自分の言葉で合成・表現して出力する。こうした言語能力は、誰もが生まれながらに備えているというのだから驚く。だからこそ第2言語である英語の習得も、なるべく母語の獲得と同じように「自然に」近づけることが脳科学的にも理想なのだそう。

「英語が得意な人は、自分で習得法を見つけたエキスパートなので、『継続は力なり』などと簡単に言ってしまいますが、そうではない人は、どんなに英語を勉強しても聞き取れない、話せないという状況になりがちです。母語のように、『勉強』を必要としない言語が存在することを軽視してはいけません。脳が本来持つ言語能力に働きかけるような自然な習得法を探すべきです」

 酒井さんによると、「『習うより慣れろ』の真理は、母語の獲得に近い」という。幼い子どもはそもそも言葉を習っていないし、親が文法を教えることもないからだ。

試験ありきの学びは疑問 「到達度」で評価すべき

 英語と楽器は習得の過程が似ている。脳は「可塑性」と呼ばれる、何歳になっても変化する力に満ちており、大人になってからでも英語も楽器も習得が可能だ。また、感情を込めて演奏すると音色が変わるように、言語も人間の心や思考を捉えていくことが核心にある。

「バイオリンもピアノも、同じ楽曲を繰り返し練習し、身につけていきますよね。また、まず曲全体の流れをつかんだ後に、構成要素を分節化し、曲の構造の把握を経て、ようやく理解に至ります」

 この習得過程は、脳科学からみると、言葉のリズムや抑揚になじみ、文全体をつかんでから分節化していく、幼児の言語獲得に近いという。

 酒井さんは、「英語は本来、勉強しないと話せないものではない」としたうえで、学校の英語教育についても、「試験による減点方式でなく、楽器の演奏や声楽のように、どこまで理解や表現ができるようになったか、という『到達度』で評価してほしい」と指摘する。「『語学=勉強』だと思っている人ほど効率を求めがちですが、言語習得は効率とは無縁です。試験ありきでは、点を稼ぐための抜け道やテクニックばかり追求し、歪んだ能力が育ってしまいます」

 強いて勉める方法ではなく、レジリエンスを育み、英語の奥深さを探究していく姿勢こそが大切なのだ。

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