■自分で決める人生、誰かに言われたことをやる人生

矢萩:自分でやるより周りを見る、ということであればゲームもそうですね。自分でやるんじゃなくて実況見ているほうが好きっていう価値観は、確実に増えています。多分そっちのほうが楽なんでしょうね。ゲームだって、クリアするためには技術を上げていかないとできないから、だったら技術が高い人のものを見ているほうがいいじゃん、みたいな。スポーツ観戦に近いものがあるのかもしれない。まあ、これはこれからどう展開していくかわからないですけどね。ただ言えるのはYouTubeを見るにしても、能動的に検索して自分が見たいものを引っ張って見ている子はいいと思うんですが、ある動画を見たら次これはどうですか、みたいなのが出てきて、それを連続でずっと見ちゃっている子たちは心配ですね。自分が見るものすら選んでないんですよ。実際、結構多いと思うんですが。

安浪:かつての教え子で浪人した女の子が、中学受験と大学受験を比べると、中学受験のほうが楽だったって言っていてびっくりしたんですよ。中学受験のときは顔に生気がなくて、遊びたい、受験やめて公立に行きたい!と親子でしょっちゅうもめていたので……。そうしたら、大学受験は予備校には行っているものの、自分でやることを選んでいかないといけない。でも、中学受験の時は、塾や家庭教師の先生に言われたことだけやっていればいいから楽だった、って振り返りをしてました。

矢萩:それだけ自己決定することがストレスになっちゃっている、ってことですよね。

安浪:はい。それは「やらされ中学受験」の怖い側面でもありますね。

矢萩:自分でやることを自分で決められる人になるか、誰かに言われたことをひたすらやる人になるか。そこで二極化して、格差が出てきてしまう。今、それがより加速化しているようにも思います。

安浪:子どもが親の言うことをよく聞くと、親は「よくできる素直な子」って思いがちですが、気をつけたいところですね。

矢萩:誰かの言うことに従うにせよ、それを自分が能動的に選択してるんだったらいいんですけどね。「僕は言われたことをやるほうが幸せなんです。そっちで生きていきます」って。でも、なんとなくそうなっちゃって、なんか人生つまんないな、とか愚痴っているならもったいないな、と思いますね。

(構成/教育エディター・江口祐子)

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安浪京子 矢萩邦彦
安浪京子 矢萩邦彦

安浪京子(やすなみ・きょうこ)/「きょうこ先生」として親しまれている中学受験専門カウンセラー、算数教育家。佐藤亮子さんとの共著『親がやるべき受験サポート』(朝日新聞出版)が好評。最新刊は『中学受験にチャレンジするきみへ 勉強とメンタルW必勝法』(大和書房)。

矢萩邦彦(やはぎ・くにひこ)/「知窓学舎」塾長、多摩大学大学院客員教授、実践教育ジャーナリスト。「探究学習」「リベラルアーツ」の第一人者として小学生から大学生、社会人まで指導。著書に『子どもが「学びたくなる」育て方』(ダイヤモンド社)『新装改訂版 中学受験を考えたときに読む本 教育のプロフェッショナルと考える保護者のための「正しい知識とマインドセット」』(二見書房)。

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