猛威を振るった台風で、電柱が倒壊して停電が相次いだ。解決策の一つは「無電柱化」だ。日本では進むのだろうか。小中学生向けのニュース月刊誌「ジュニアエラ」12月号に掲載された記事を紹介する。
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強風で電柱が倒れ、広い範囲で長期間、停電が起こる。これも台風の脅威の一つだ。
9月上旬に台風15号が首都圏を襲ったときには、千葉県を中心に2千本以上の電柱が倒壊し、93万戸以上が停電した。昨年秋に上陸した台風21号でも、関西で約1300本が折れ、大規模停電につながった。停電は病院の患者さんの命にかかわる。倒れた電柱で救急車も通れなくなる。
対策の決め手は、電線を地中に埋める「無電柱化」だ。パリやロンドンは無電柱化率が100パーセントなのに、日本では、進んでいる東京23区でも8パーセントにとどまる。戦時中、空襲で主な都市が焼け野原になったため、戦後はできるだけ安く、早く都市を復興させようと、電柱を立てて送電線を張りめぐらせたためだ。
地中化しようという国の政策は1980年代からあったが、予算規模は小さく、大半は放置されてきた。今、電柱は全国に約3600万本あり、年に約7万本増えている。
3年前、やっと無電柱化推進法が議員立法で成立した。2018年には、国は3年間で1400キロメートルの道路にある電柱をなくす、という計画を発表した。
たとえば京都市では中京区の花街・先斗町通の490メートルで、無電柱化の工事が進む。工事が終わった区間の空はすっきりし、観光客の評判もよい。こんな地域を広げるには、安い工法の開発がかぎを握る。
国土交通省によると、電柱だと1キロメートルあたりの工事費が約3千万円だが、地中化には約5億円かかる。国や自治体など道路管理者と、電力会社や通信会社が負担する。国交省は電線を浅い地中に埋める方法などで費用を安くできないか、研究中だ。
無電柱化には短所もある。電柱にある変圧器を地上に置かねばならず、周辺住民の理解も欠かせない。11月10日は「無電柱化の日」だった。「1」を並ぶ電柱に見立て、それを「0」にしようという意味で、推進法の中で定められた。力強く進めるには、各自治体が無電柱化の防災効果を丁寧に説明し、社会の合意を得ることが大切だ。
【無電柱化推進法】
災害の防止、安全で円滑な交通の確保、景観保護などのため、電線を地下に埋設し、道路上の電柱を撤去、および設置を抑制するよう、国や自治体、電力会社などに求めた法律。基本理念や、国・都道府県・市町村の責務などを定めている。罰則はない。2016年に成立。
(朝日新聞論説委員・前田史郎)
※月刊ジュニアエラ 2019年12月号より