牧野正幸CEOの発案で有志50人が集まり、「企業内保育所は必要か」というところから議論を始めた。「社員にとっての理想の保育所」を徹底的に話し合った結果、外部の保育事業者への委託ではなく、保育所を自社で運営することを選んだ。
「月額30万円。募集は4人」
社員と同じ待遇の保育士募集には550人もの応募があった。自らも2児の母である、WithKidsプロジェクトマネジャーの谷口裕香さん(33)は言う。
「従来の保育所の枠にとらわれない理想の保育所を、社員、保育士とともに作り上げたい。保育士は同僚。保育の質を確保するうえでも適正な待遇は不可欠だと考えました」
小泉純一郎首相(当時)が「待機児童ゼロ作戦」を打ち出してから16年。都市部を中心に待機児童解消のきざしは見えないが、ここに来て切り札とされるのが「企業主導型保育事業」による企業内保育所だ。
企業内保育所には大きく分けて3タイプがある。国はこれまでも民間活力に期待をかけてきたが、「従来型」は企業の負担が大きく、思うように増えなかった。15年4月からは地域住民の枠を設けることを条件に自治体が認可し助成する「地域型保育事業」も組みこんだが、そもそも認可事業には時間がかかる。
そこで16年4月、内閣府は一定の基準を満たして保育事業を始める企業を、認可保育所並みに助成する「企業主導型保育事業」を始めた。ワークスアプリケーションズやSGホールディングスもこの制度を活用。1年で871施設、定員にして約2万人分を助成するという好調な滑り出しを受けて、今年8月、松山政司少子化対策担当相は、17年度末までの定員目標を、当初の5万人から7万人に拡大すると発表した。
第一生命経済研究所の的場康子さん(49)はこう説明する。
「企業主導型保育事業は、整備費の4分の3に加え運営費も助成される。従来の企業内保育所に比べて企業の負担が格段に軽い。働き方の多様化に対応すべく開所時間も柔軟に設定できる。自治体が関与せずスピーディーに開設できる点も、企業の勢いにはずみをつけました」
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