
俳優、ミュージシャン、映画監督、漫画家、お笑い芸人など、King Gnuの井口理が敬愛する14人の表現者をゲストに迎え、彼らの言葉に耳を傾けた対談連載「なんでもソーダ割り」が書籍化される。1年4カ月にわたった長期連載で井口が見つけたものとは。AERA 2023年3月13日号から。
【写真】蜷川実花が撮った!AERAの表紙を飾った井口理さんはこちら
* * *
アエラで連載した「なんでもソーダ割り」が単行本としてまとめられる。僕がどうしても会いたかった14人+1人との対談集だ。
できあがった1冊を手にして最初に浮かんだ言葉は、「やってよかった」。この経験は、これからの僕にとって間違いなく大きな意味を持つと思う。
正直、連載中はこれほど大事なものになるとは想像していなかった。「楽しいな」と思う瞬間はたくさんあったし、やりがいもあったけど、いつも緊張のほうが上回っていたから。
でも今、改めてすべてを通して読み返すと、ゲストの方たちの言葉の一つひとつが僕の中の深いところに堆積しているのがわかる。この本にはたぶん、今の僕が少しずつ形成されていく様子が克明に記録されているのだろう。まるで地層の断面図みたいに。
■あの時の違和感の正体
これは僕にとって「自分探しの旅」でもあった。
僕は高校生の時、日本海が見たくて新潟へ自転車旅に出たことがある。長野から北へ250キロ。一人きりで、ぶっ通しでペダルをこぎ続けた。朝5時に家を出て、海に着いたのは夕方6時。ちょうど夕日が沈むところだった。
地元に帰ってきた僕に向かって、高校の先生は言った。
「自分探しっていうけど、自分っていうのは自分の中にしかないよ」
その言葉に僕は納得できなかった。どこか違和感があった。でもうまく言語化することができず、上京してバンド活動をするようになってからも先生の言葉は心に引っかかったままだった。
あの時に覚えた違和感の正体が最近わかった。
人は、他人を通してしか自分を知ることができない。だから、自分がわからないなら、外に探しに行くしかない──。
「なんでもソーダ割り」のおかげで、あの日の自分にかけるべき言葉にようやくたどり着くことができた。
連載をしていた2021~22年は、コロナ禍で様々な活動が思うようにできず、苦しい時期だった。転機となったのは21年の夏、初めての主演映画「ひとりぼっちじゃない」の撮影だ。あそこから自分の中の何かが大きく回り始めた。
(構成 編集部・藤井直樹)
※AERA 2023年3月13日号