世界を震撼させた原発事故から間もなく12年。いまだ食べ物からは、前出の福島だけではなく、東日本の広い範囲で基準値を超える放射性セシウムが検出されている。大半は、野生のキノコ類やタケノコ、ジビエ(野生鳥獣類)など「山の幸」だ。地域別に見ると、秋田を除く東北5県と茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、神奈川、新潟、山梨、長野、静岡の計15県に及ぶ。

 今なお原発から遠く離れた場所でも基準値を超え検出される産品があるのは、なぜなのか。

 国立研究開発法人森林研究・整備機構「森林総合研究所」(茨城県つくば市)研究専門員の三浦覚(さとる)さんは、セシウムの性質にあると説明する。

「事故で降り注いだ放射性セシウムは、最初は樹木にも多く付着し、雨などによって地表の落葉層に移動します。落葉が分解するとその下の土壌層に移りますが、セシウムは粘土鉱物に強く吸着される性質があるため、森林内にとどまっています」

 三浦さんによると、セシウムは現在、9割以上が地表から5センチ以内にとどまっているという。福島の事故では、主に半減期が約2年のセシウム134と約30年のセシウム137が放出された。事故から12年がたち、検出されるのはほとんど137だ。植物によるセシウム吸収はカリウムで抑えられるので水田や畑ではカリウム肥料をまく対策が講じられている。だが広大な森林で実施するのは難しい。

「事故から10年以上たち、科学的な知見は積み上がっています。山の仕組みを理解した上で何ができるか、生産者と行政、研究者も交えて対話しながら進めていくことが大切です」(三浦さん)

(編集部・野村昌二)

AERA 2023年3月13日号

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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