東京都武蔵野市が市議会に提案した住民投票条例案に反対し、デモを実施した排外主義政策を掲げる政治団体と、「差別はやめろ」と訴える人たち(photo 編集部・野村昌二)
東京都武蔵野市が市議会に提案した住民投票条例案に反対し、デモを実施した排外主義政策を掲げる政治団体と、「差別はやめろ」と訴える人たち(photo 編集部・野村昌二)
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 ヘイトスピーチ対策法の施行から5年半。2020年には、川崎市で差別禁止条例もできた。それでもなお、憎悪をあおる誹謗中傷や差別はなくならない。AERA 2022年1月3日-1月10日合併号から。

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 12月4日、週末の東京・吉祥寺。若者らで賑(にぎ)わう街で、100人近くが参加したデモがあった。日の丸や旭日(きょくじつ)旗を手に、

「武蔵野市住民投票条例を撤廃させるぞ」「松下玲子市長は武蔵野市住民投票条例を撤廃せよ」

 などと叫びながら行進。これに対し歩道から、

「レイシスト(差別主義者)は帰れ」「差別はやめろ」

 20人近くがマイクや大声で応酬。警官も入り交じり、JR吉祥寺駅前は一時、騒然となった。

 吉祥寺がある武蔵野市は11月、松下市長が外国籍の住民にも開かれた住民投票条例案を市議会に提案したが、12月21日に否決された。条例案は、投票資格者について、18歳以上で市の住民基本台帳に3カ月以上続けて登録されている者とし、日本人に加え、外国籍住民にも投票権を認めるとした。提案後、市役所周辺には排外的な右派団体が、連日のように街宣活動をかける騒動に。この日のデモは、排外主義政策を掲げる政治団体が主催。そこに、カウンター(抗議活動)を行う人たちが詰め寄ったのだ。「差別は犯罪」と書かれた紙を手に、抗議活動に参加した男性(40代)は憤った。

「これは住民投票条例を理由にした外国人差別。我慢できない」

■声を上げたら標的に

 特定の民族や国籍の人たちへの差別をあおるヘイトスピーチ。2013年に日本で急激に広がり、国際社会からも問題を指摘する声が相次ぎ16年、ヘイトスピーチを許さないとする「ヘイトスピーチ対策法(解消法)」が施行された。法律ができた効果は大きく、野放しだった過激で直接的なヘイトスピーチは減った。20年には、川崎市で初の刑事罰を盛り込んだ「川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例」が全面施行された。だが、憎悪をあおり、マイノリティーの心身を傷つける誹謗(ひぼう)中傷や差別は続いている。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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