自民党総裁の最大の責務は「選挙の顔」だ。ただ菅首相は、直近の横浜市長選はおろか、今年に入って行われた補欠選挙、再選挙など主だった選挙に惨敗し続けている。そんな矢先、自民党に衝撃が走った。8月21、22日に自民党が秘密裏に行った衆院選の全国調査で、現有276議席から最大「60議席」を失い、単独過半数(233議席)を大きく割り込むという結果が出たのだ。安倍人気にあやかって当選した若手は惨敗必至。岸田氏は、日々高まる党内の菅首相批判の受け皿になれるのか。

 ただ菅陣営も黙ってはいない。岸田人気が高まればある奇策に打って出る可能性がある。それが、総裁選前の解散だ。自民党国対関係者は、菅首相がパラリンピック閉幕直後の臨時国会の召集に向けた準備を始めていると明かす。

「野党の求めに応じ、総裁選よりもコロナ対策だと言って臨時国会を召集。1週間の駆け足で補正予算を組む。国会さえ開いてしまえば、いつでも解散を打てるので、本当に解散カードを切るかどうかは別にして、岸田氏への十分な牽制になるという戦略でしょう」

 ただし、このタイミングでの補正予算には財務省は否定的だ。事務方のトップである矢野康治・財務次官は徹底した財政健全派だ。いずれにしても、総裁選挙は、自民党というコップの中の権力争いでしかなく、それによって確実に政治空白が生まれる。前出の自民党幹部はこう漏らす。

「前回の衆院選が勝ちすぎた。今回は新総裁が誰になっても負け戦。あとは負け方の問題。この感染爆発は誰の手にも負えない。政治家生命をかけて火中の栗を拾おうと本気で思う政治家はいませんよ」

(編集部・中原一歩)

AERA 2021年9月6日号