佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ、作家・元外務省主任分析官。著書に『50代からの人生戦略』『還暦からの人生戦略』など(撮影/写真部・東川哲也)
佐藤優(さとう・まさる)/1960年生まれ、作家・元外務省主任分析官。著書に『50代からの人生戦略』『還暦からの人生戦略』など(撮影/写真部・東川哲也)
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 長い人生、自分らしく生きるために、50歳から新たな戦略が必要だ。どのような姿勢で人生を歩めばいいのか。AERA 2021年8月2日号は、佐藤優さんに聞いた。

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 50歳を過ぎたら、肩の力を抜いた守りの姿勢で、意図的に消極的な選択をするよう心がけてみる。そんな「積極的消極主義」が非常に大切になってくると考えています。

 いま巷にあふれる50歳以降や定年後の人たちに対するメッセージには「まだまだやれる、がんばろう!」という話が多すぎるんです。体が動く限りがんばって働き続けないといけない。言われなくてもみんなわかっています。でも、もうこの先はがんばりすぎても、積極的に「新しい挑戦」に打って出たりしても、ろくなことはありません。

 たとえば50を過ぎてから、それまで手掛けたことのない新分野のプロジェクトチームで責任者をやってくれ、などという話には決して喜んで飛びつかないことです。そういう話はたいてい筋の悪い案件だったりで、あなたが選ばれたのは責任を取ってほしいから。そういう「組織のずるさ」も知り、消極主義でうまく逃げることが重要です。

 私は最近、イソップ物語の「酸っぱい葡萄」に出てくるキツネのことをよく考えるんです。腹を空かせたキツネが、木になった葡萄の実を取ろうとするけれど、届かない。キツネは「この葡萄は酸っぱいんだ」と捨て台詞を残して立ち去ります。負け惜しみを言うみっともないキツネ、というとらえられ方が一般的です。

 でもよく考えると肉食獣のキツネは葡萄を食べても栄養になりません。届かないものをいつまでもめざしているより、別のものを狙った方がいいはず。同じことが人間の50歳にも言えると思うんです。

 会社で働くなかには必ず、競争があります。その中で、組織の上位層に行ける人かそうでないか、というところは50歳を過ぎると必ず見えてきます。そしてその見通しに「逆転」はまずありえません。そうであるなら、「酸っぱい葡萄」のキツネのように見切りをつけて、別の生き方へと転身していく。別の自分の居場所を見つけていく。それができるなら捨て台詞くらい言ったっていい。このキツネのような生き方の方が素敵なんじゃないかと感じます。

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