東京電力の福島第一原発構内を視察する菅義偉首相/9月26日、福島県大熊町(c)朝日新聞社
東京電力の福島第一原発構内を視察する菅義偉首相/9月26日、福島県大熊町(c)朝日新聞社

 国が隠し続けた原発事故の「真実」が、時が経つにつれてあぶり出されている。東日本大震災から来年で10年。司法が下した判決は、「国にも責任がある」だった。AERA 2020年10月12日号の記事を紹介する。

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「事故は防げた、人災だった」

 高裁が初めて、そう判断した。

 東京電力福島第一原発の事故で、住民が国や東電に損害賠償を求めた集団訴訟は、全国で約30ある。これまでの判決で、国の責任を認めたのは7地裁、認めなかったのは6地裁と司法判断は割れていた。

 9月30日、仙台高裁(上田哲裁判長)は、国が東電に津波対策をとらせなかったことは違法だと、明快に認めた。国の責任を示す事実が、少しずつ解明されてきたことが背景にある。

 東日本大震災から遡ること約9年前、2002年8月1日の朝刊に、東北地方でマグニチュード(M)8クラスの巨大地震が高い確率で発生すると警告した記事が載った。

「津波地震、発生率20%」
「今後30年三陸─房総沖」

 朝日新聞も、このような見出しで社会面に大きな記事を載せている。三陸沖で1896年に発生した津波地震は、岩手県で30メートルを超える高さまで遡上し、死者は2万人を超えた。同じような地震が、もっと南の福島沖や茨城沖でも起きる、という内容だった。

■保安院「役割」果たさず

 発表したのは、政府の地震調査研究推進本部(地震本部)。「首都直下地震の発生確率は、今後30年で70%程度」という予測を聞いたことがある人は多いだろう。これは地震本部が04年8月に発表した長期評価だ。津波地震についても同じ方法で、地下の構造や過去の地震の記録から、規模や発生確率を予測した。

 8月1日付朝刊の記事を読んだ経済産業省の旧原子力安全・保安院の担当者は、同日午後6時半ごろ、東電に電話した。

「本日新聞に掲載された『三陸沖津波地震確率20%』に対して、プラントが大丈夫であるかどうか、説明を聞きたい」

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