小宮山議長はアエラの取材に、メールで次のように答えた。

「総長選考会議の審議の経過については、選考終了後の10月2日の会見で説明する予定です。選考会議では、今回、学内の合意を得て改定した『求められる総長像』に照らして、最良の方を選出するという方針で臨み、面接を含めた調査を行い、慎重かつ丁寧な検討を行ってきました。また、選考の実施方法については、これまで数年間かけて選考会議で審議し、部局長への意見照会も反映させ詳細を詰めてきました。選考の枠組みの策定は、候補者の名前が出てくる前に完了しており、そのルールに忠実に従いながら選考を進めてきています。公正さや透明性の確保も学内の合意を形成したうえで進めています」

 教員たちが総長選に「学内の民意が反映されているか」に敏感に反応するのは、「大学の自治」に対する危機感があるからだ。2004年の大学の法人化以降、権限は総長に集中し、政界や財界が大学への関与を強めることを懸念している。阿部公彦・人文社会系研究科教授は言う。

「大学入試改革で、英語民間試験の活用について、東大は『現時点で入試に用いるのは拙速』と発表していたにもかかわらず、政界の圧力を受けて方向転換した経緯がある。今回の選考過程に同様の懸念を感じるのです」

 佐倉統・情報学環教授は次のように語る。

「数の論理だけでいえば、工学部の人数が最も多いので、総長は毎回、工学部から輩出されることになる。ところが、そうしないできたのが東大。各々が学部にとらわれず、そのときどきで最もふさわしい人物を選んできたからです。そうしたことを東大は矜持にもしてきた。ところが今回は選択肢がないに等しく、多様な意思の反映のしようがない」

 教員による最終投票まで、すでに1週間を切った。60代の理系の教授は言う。

「選考過程に疑念を抱かれたまま選出されても、新総長は重荷を背負うことになる。だれもが納得するかたちで選ばれる道筋をつけることが大事だ」

(編集部・石田かおる)