※写真はイメージ(gettyimages)
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AERA 2020年9月14日号より
AERA 2020年9月14日号より

安倍政権が遺した極端な「分断社会」 主張が違う人を全面否定、排除の論理が台頭から続く

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 世界的に進行する深刻な二項対立。なぜそんな風潮が広まるのか。その流れに抗する方法はあるのか。AERA 2020年9月14日号から。

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 深刻な社会の分断は日本にとどまらず、先進民主主義国に共通する。そう指摘するのは、慶應義塾大学の渡辺靖教授だ。同教授が専門とする米国社会は、保守かリベラルかという理念・思想よりも、感情的な対立が日本以上に深刻化している。

 その象徴が、全米に広がったBlack Lives Matter(黒人の命も大切だ)を訴える抗議デモと、それを強硬に抑え込むトランプ大統領陣営との対立だという。

■自分こそが被害者だ

 相次ぐ白人警官による黒人の暴行死傷事件に怒る左派の人々は「黒人に対する構造的差別」を問題視する。一方、大統領を含む右派は「構造的差別などない」とし、抗議デモに伴い発生している略奪や暴動こそが問題だとして、「リベラル=過激派」とレッテルを貼り非難する。

「この状況は皮肉にも、オバマ政権が重視した対話路線が実際には機能しなかった反動です。対話よりも対決して相手をねじ伏せてしまえばいいという考え方が広まった」(渡辺教授)

 世界中でこうした社会の分断が進む理由は何なのか。大きな要因として渡辺教授が指摘するのは、格差拡大によって、「自分こそが被害者だ」という意識を持つ人が増えたことだ。

「多くの人が、自分たちが割を食っているのは『奴ら』のせいだと思っている。その『奴ら』が誰なのかは個人の立場によってさまざまで、政府だったり富を牛耳る大企業だったり、知的エリートだったりするわけです。欧米の場合、『奴ら』には移民・難民も加わり、日本では、プレゼンスを増す中国や韓国が入ってくる」(同)

 さらに問題を複雑化させているのはSNSなどネット空間の存在だ。渡辺教授が続ける。

「ネットでは個々人が考える『奴ら』が、記号化して独り歩きしている。姿が見えないからこそ、負の感情も増幅される」

 ネットの負の側面については、ジャーナリストの津田大介さんも同意する。

「特にツイッターは感情を共有するメディアなので、強くて断定的な言葉であればあるほど多くの『いいね』がつき、リツイートされる。その誘惑に引きずられて、つい極端なことを言ってしまいがち。日米だけでなく、成熟した民主社会というイメージの北欧でさえそうです。言論人も例外ではありません。結果的に、近現代史研究家の辻田真佐憲氏の言葉を借りれば『論壇のツイッター化』が起きている。右傾化とか左派の過激化というより、双方の一部の『感情化』が激しくなっているのです」

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