■勝つことが目的化する

 どうしたら分断を食い止められるのか。渡辺教授は言う。

「ミクロレベルでは、若い世代に期待したい。彼らの社会正義を重んじる価値観が主流になれば、その感性に合わない政治や企業が受け入れられなくなる」

 津田さんはSNSとの付き合い方をもう一度見直してみてはどうかと答えた。記号化してしまっている敵がリアルな人間であり、複雑な存在であることを再認識することだという。

「ツイッターで辛口なことを言っている人が、実際に会ってみたらとても穏やかでいい人だった、なんてことは結構あります。その逆もしかり。ツイッターは人間のいろんな側面をスライスするツール。しかも一瞬の感情を切り取って表現するものなので、一つのツイートでその人の全体は理解できない。当たり前のことですが、それを時々意識する。そしてツイッター以外に議論の場を作っていくことが重要です」

 ノンフィクションライターで『ルポ 百田尚樹現象 愛国ポピュリズムの現在地』の著者、石戸諭(さとる)さんは、勝つための議論ではなく、理解する議論が求められていると話す。

「勝つことが目的化する議論には落とし穴があります。社会は複雑なのに、正しい解は一つだと信じることです。僕は百田さんの本を書くにあたって、右派のキーパーソンにも取材しましたが、なぜ右派がここまで支持を広げられたのかなど学ぶことが多々ありました。相手を全否定か全肯定ではなく、互いに研究し、学び合う部分を残すこと。それが分断に抗することにつながると思います」

(編集部・石臥薫子)

AERA 2020年9月14日号より抜粋