一方、イヌは飼い主だけしか見えず、指示を出す側の人間の様子などは伝わらない状態にして、心拍を測定した。もしもイヌの心拍に変化が現れたとしたら、それは飼い主の様子の変化に同調(共感)したからといえるわけだ。この実験をイヌと飼い主のペア13組で行い、前述の解析法で比べたところ、イヌと飼い主が同じような変化を見せた。つまり、緊張やリラックスといった飼い主の気持ちの変化が、イヌにも伝わっているのだ。これによって、イヌが人に共感する能力を持つことを科学的に証明することができたと研究チームは考えている。

 また、今回の実験から、飼育期間が長いほど、人とイヌの心拍の変化が同調しやすいこともわかった。飼い主と一緒に暮らす期間が長いほど、イヌは人に共感しやすくなるというわけだ。

 チンパンジーは、訓練すると簡単な計算ができるようになるし、オウムは人の言葉を覚えてまねすることができる。イヌにはそういうことはできないけれど、人の気持ちを読み取り、人と共感する能力では、ほかのどの動物にも負けないだろうと菊水教授は言う。

「盲導犬は、目の不自由な人の気持ちを読み取って、その人が不安を感じないように道案内をします。セラピー犬は、病気と闘っている人に寄り添って苦しみを癒やし、励ましてくれます。私たちは、人に共感するイヌにどれだけ助けられているかわかりません。イヌは飼い主の気持ちの変化を瞬時に読み取り、そのときどういう行動をとったら適切かを自分で学ぶ能力をもっているのです」

 もともとイヌは、助け合って狩りをしていたから、仲間同士で共感する能力が高かった。そんなイヌが、約1万5千年前から人に飼われ、一緒に暮らすようになった。飼い主が外敵に襲われそうなとき、いちはやく危険を察知し、自分の危機のように感じられるイヌは、生き残る可能性が高く、人に飼われやすくもなる。こうした積み重ねから、共感する能力の高いイヌが生き残り、今のような状態になったと考えられるという。

 もしキミがイヌを飼っていたら、愛犬がどのくらい共感してくれているか、キミなりの方法で観察してみると面白いかもしれないね!

(サイエンスライター・上浪春海)

※月刊ジュニアエラ 2019年12月号より

ジュニアエラ 2019年 12月 増大号 [雑誌]

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