そうやって多くのミュージシャンから信頼されてきたそのロケット・マツらが、フランスの音楽家、パスカル・コムラードからその名前を頂戴して95年に結成したのがパスカルズだ。パスカル・コムラードは現代音楽の範疇で語られがちだし、実際に綿密に構築された前衛的インスト曲が多いが、一方で飄々としていて洒落ていて、子どもでも楽しめる敷居の低さも持っている。ロケット・マツもこの14人組のパスカルズを、そうした多面性と、日本人的な叙情性を持ったバンドとして捉えているのだろう。これまでの活動、作品の多くが、映画や演劇の音楽であることが、パスカルズというバンドのそんな魅力を証明しているように思える。

 代表的なところだと、「ボクの、おじさん」(2000年/東陽一監督)や「松ケ根乱射事件」(06年/山下敦弘監督)。大林宣彦監督による「野のなななのか」(14年)では主題歌や挿入歌だけではなく、メンバー全員が野の楽士として出演もしている。また、「どん底」(08年)など劇作家、ケラリーノ・サンドロヴィッチが脚本・演出する舞台の音楽も多数手がけているし、近いところではTBSドラマ「毒島ゆり子のせきらら日記」(16年)が話題となった。

 14人という大所帯ながら、元「たま」の知久寿焼、石川浩司など、それぞれ経験も十分、ソロとしても活動する俊英たちがズラリと揃い、バンドというより楽団という言葉のほうが似合う彼らの滋味豊かな演奏が広くお茶の間でも受け入れられたのは当然と言える。近年、パスカルズやロケット・マツの存在が広く知られるようになったのは、むしろ遅いくらいと言っていい。

「白洲次郎」「あまちゃん」「いだてん」など多くの劇伴を多く手がけて近年話題を集める大友良英も、80年代から活動し、主に00年代以降、フリージャズやノイズ系のフィールドを超えて、映画やテレビの音楽の世界で活躍するようになった。ロケット・マツとパスカルズも長く丹念に自分たちの作品を煮詰めてきたからこそ、「凪のお暇」のあの穏やかで情緒豊かな音楽があるのだろう。

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彼らならではの哲学