空飛ぶタクシーの「実物」と注目を集めたのが、今年1月に世界最大級の家電見本市「CES」で原寸大モデルが展示された米ベル・ヘリコプターの「ベル ネクサス」だ。洗練された流線形のボディーは「未来の乗り物」のイメージと重なる。

 同機は重量約2.7トン、ハイブリッド式の垂直離着陸機で、最高時速は約240キロ、航続距離は約240キロ。無人操縦ではなく、乗客4人と操縦士の計5人乗り。20年に試験飛行を目指す。ベル日本法人の正村卓也営業部長(48)は言う。

「私たちはネクサスが空飛ぶタクシーの最終形態だとは全く考えていません。今後、完全電動化や自動操縦化を図り、新しいモデルを開発したい」

 空飛ぶタクシーは、必要なときにスマートフォンで配車するシステムが念頭に置かれている。ヘリコプターでこのシステムを先行導入しているのが、航空機メーカーのエアバスだ。

 南米のサンパウロとメキシコ市で商業運用されている同社の「Voom」は、スマホアプリで1時間以上前に出発地と目的地を入力すれば、最寄りのヘリポートからヘリを手配できる。同エリアに向かう数人の乗客が相乗りするためタクシー並みの料金での利用も可能だ。

 エアバスは約1年前、完全自動操縦で垂直離着陸する1人乗り機「Vahana」のデモフライトに成功。高性能の無人ドローン機「Skyways」もシンガポールで実証段階に入っている。担当者は言う。

「実用化に向けては、しっかり安全を担保できる仕組みやハードウェアをつくるのが重要。航空産業が培ってきたクオリティーの高い『航空品質』にこだわって開発を進めています」

 配車アプリの米ウーバーテクノロジーズも、空のライドシェアサービス「ウーバー・エア」の実証試験を20年に、世界3都市以上での商用サービスを23年に開始する計画だ。

 そのとき課題となるのは、空飛ぶクルマの供給態勢だ。前出の正村さんはこう見据える。

「現在、民間向けヘリの生産態勢はフル稼働でも年間数百機程度です。航空業界が経験したことのない規模の量産態勢を確立しないと対応できません」

 管制システムも大きな課題だ。大量の飛行物体の安全運航をどう管理するのか。管制官が目視とレーダーで行う現状の空港管制とは異次元のAI技術の開発、導入が欠かせない。

 人の移動と同様に期待がかかるのが、モノの運搬だ。

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