冒頭で紹介した講演会には、宅配便最大手ヤマト運輸を傘下に持つヤマトホールディングス(HD)と、米ベル・ヘリコプターの担当者も登壇した。両社は昨年10月、通称「空飛ぶトラック」の共同開発で合意しており、講演会では両社が開発を進めている輸送用無人機「電動垂直離着陸機(eVTOL機)」を紹介した。

 同機は垂直に離着陸し、空中では機体を90度傾けて飛行する。プロペラなどを備える機体部分と、貨物の格納部分は切り離しが可能。格納部分は、トラックのように地上を走行できる。自動運転で、時速160キロ以上のスピードで飛び、最大453キロの荷物を運ぶ性能を持たせる計画だという。

 ベルが機体を、ヤマトHDは荷物を搭載する格納部分の開発を担当する。今年8月をめどに約32キロの荷物を積む全長約1.5メートルの機体の試験飛行を行う予定だ。試験飛行を重ね、20年代半ばの実用化を目指す。ヤマトHDの伊藤佑eVTOLプロジェクトチーフR&Dスペシャリスト(28)は言う。

「自動操縦で昼夜を問わず稼働するため輸送効率は飛躍的に向上します。一方で空域の活用はあくまで中・長距離の搬送に限定し、最終的にお客様の手元に届ける地上の配達作業は従来通り、人から人へ細やかなサービスが大切だと考えています」

 同社は都市部の場合、ビル屋上などのヘリポートを中継拠点として活用し、付近に待機するスタッフが配達を引き継ぐスタイルなどを見据えている。

 経産省などが空飛ぶクルマに力を入れるのは、人口減少や超高齢化への対策になるからだ。

 限界集落や離島など地上からのアクセスが困難な地域の物資輸送や医療サービスに活用すれば、トンネルや橋などの巨額のインフラ投資や人件費をかけなくても生活サポートを維持できる。災害時の物資輸送や人命救助にも活用できる。陸路で行けなかった名所にアクセスできるようになれば、訪日観光客のニーズ掘り起こしにもつながる。

 国の本気度がうかがえるのが、官民協議会のメンバー構成だ。今回、省庁が旗を振る際に付きものの「オールジャパンで」というキーワードを捨て、エアバスやベル、ボーイング、ウーバーといった海外メーカーも事業者に名を連ねた。

 国内企業の保護を重視した結果、市場が「ガラパゴス化」する。そんな失敗をまた繰り返していては、世界から取り残されてしまう──。官僚たちの危機感は、実を結ぶだろうか。(編集部・渡辺豪)

AERA 2019年6月10日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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