お別れの際、家族みんなで父を取り囲み、体を拭いたり、手や足を洗ってあげたり。在宅ならではの「家族の時間」を過ごして父を見送れたと、女性は涙をにじませながら振り返った。

「どの段階で先生に診てもらったらいいかの判断は難しい。何かあるたびに来てもらうのは気がひけますし。だから、定期的な訪問以外にも、オンラインでいつでも対応してもらえたのは、安心感がありました」

 内田医師は今回、医療者の負担を減らしながらも、オンラインによる診療を挟んで診療の頻度を増やし、医療の質を上げられたという。

「在宅の看取りにおいて、訪問診療とオンライン診療の組み合わせが有効だと確信しました」

 にのさかクリニック(福岡市)院長の二ノ坂保喜医師(67)は、

「在宅医療の場でこそ、オンライン診療が役に立つと思った」

 と話す。ツールを使って手を抜くのではなく、むしろ、より質を高められるような在宅医療をイメージしているという。

 二ノ坂医師は在宅ホスピスの草分けだ。これまで千人近くを在宅で看取ってきた。訪問診療と同様、オンライン診療でも、そのまなざしは患者を取り巻く暮らしまるごとに向けられている。

 二ノ坂医師のパソコンには、居間のソファに座る60代の男性と家族の姿が映し出された。がんの痛みが増し、体力も衰えて、4月末からは通院がかなわなくなった。訪問診療の合間にオンライン診療を活用していた。

二ノ坂「どうですか、◯◯さん。ちょっとキツいかな?」
男性(患者)「キツいです」
男性の妻「1時間半前にオキノーム(痛みを緩和する医療用麻薬)を飲んだんですが、(痛みの度合いが)10のうち7ぐらいだったのが、6ぐらいにしかならないと本人が言っています」
二ノ坂「では、もう一回飲みましょう。奥さんはどうですか? 奥さんの顔も映してよ」
妻(自分の顔を映しながら)「疲れてあまり眠れないです。そういえば先生、昨日、ベッドと車椅子が届きまして。(車椅子を映しながら)今日はこれを使って2回トイレに行きました」

 男性の妻は、点滴台の代用として電気スタンドを工夫して使っている様子も画面に映した。こんなふうに、訪問診療と同様、患者の「生活の場」に触れられるところも、オンライン診療の利点だと二ノ坂医師は言う。

 一方で、便利であるがゆえに患者や医師が対面による診療を軽視すれば、異常の発見が遅れるといったリスクも生みかねないと二ノ坂医師は指摘する。

「オンラインに限らずどんな道具でもそうだけど、根本に人と人との信頼関係がないとね。その関係性のベースに乗せる形でツールをうまく使っていくには、何が必要なのか。テクノロジーを使うなら、今後はそうした視点での検証が欠かせないでしょう」

(ノンフィクションライター・古川雅子)

AERA 2018年6月4日号より抜粋