家計から大企業まで、活躍の場が広がっているフィンテック。この領域で、もっとも重要な技術が「ブロックチェーン」(分散型台帳)だ。

 個別の情報を記録したまとまり(ブロック)が、鎖(チェーン)のように連結され、データを構築する。特定のサーバーには置かれず、P2P(ピアツーピア)の仕組みで、ネットワークに参加するユーザーが相互に監視する。だから、うそはつけない。さらに、大半のネットワーク参加者のデータを破壊でもしない限り、何度でも復元できる強固さも特徴だ。そんな技術に、

「企業や団体から、問い合わせはひっきりなし。知識を共有するためにこの協会をつくりました」

 と話すのは、この4月にできた「ブロックチェーン推進協会(BCCC)」副理事長の杉井靖典だ。関連34社で発足し、いまでは80社超が参加。8月に、専門家を育成するために「ブロックチェーン大学校」を開いたばかりだ。数の面で日本人技術者が圧倒的に不足しているのが理由だが、質は必ずしもそうではない、と杉井は言う。

「応用・実証研究の成果では世界トップを争っている」

●生みの親は日本人?

 杉井が最高経営責任者(CEO)の「カレンシーポート」は、日本取引所グループ(JPX)の株式システムで野村総合研究所と実証実験を行い、取引データの管理をブロックチェーンで成功させた。BCCC理事長の平野洋一郎が社長を務める「インフォテリア」は、ミャンマーの金融機関の融資・貯金データをブロックチェーン技術に置き換える共同実験に成功している。ともに世界初だ。

 なぜ日本の技術は進んでいるのか。異説めいているが、杉井はブロックチェーン技術を生んだ仮想通貨「ビットコイン」の誕生秘話にその根拠を求める。

 08年、ウェブに投稿された論文がきっかけでビットコインは生まれた。

 作者はサトシ・ナカモトと名乗った。日本人なのか、また本名なのかの真相は謎に包まれているが、名前の響きは「サトシ・ナカモト伝説」を作り出し、日本に外国人プログラマーを呼び寄せてきた、というのだ。

 ブロガーの大石哲之も心を奪われた一人だ。

 そのきっかけは、13年のキプロス金融危機だ。ユーロが大幅に下落するなかで、ビットコインは逆に値を上げた。それまで、人材コンサルタント会社を経営していたが、

「全部辞めました。週に何日も徹夜し、研究に没頭しました」

次のページ