日本の富裕層や国内企業の多くは、こうした方法にとどまっています。しかし、海外の多国籍企業では、グループ会社同士の取引や、タックスヘイブン(租税回避地)を駆使して、さらに大がかりな租税回避を行っています。

 代表例として、アメリカのGoogleは「ダブル・アイリッシュ・ダッチ・サンドイッチ」というスキームを使い、07~09年に31 億ドルもの法人税支払いを免れたと見られます。

 Googleの海外事業の拠点はアイルランドで、実際に営業実態のある会社(A社)と、アイルランドで登記しているものの経営管理は英領バミューダで行う会社(B社)があります。バミューダはタックスヘイブンで、B社は法人税が課税されません。

 アメリカの本社は、B社へ自社プログラムのライセンスを譲渡し、B社はさらにA社へライセンスを貸与します。A社は事業収益を上げますが、その大半がB社に支払うライセンス料になります。その際には、途中でオランダにある会社を経由させます。アイルランドとオランダの取引は、租税条約によってライセンス料が非課税だからです。B社は法人税を払わずに収益を蓄積できるのです。

 ライセンス料などの知的財産は客観的な評価が難しく、法外な額であってもアメリカの税務当局が否定するのは至難の業です。結果、Googleの海外利益にかかる税率はわずか3.3%に過ぎません。同様の仕組みで、Appleは3.4%、マイクロソフトは8.8%しか海外利益に対する税金を納めていません(08~12年)。

 しかし、最近は国際的に租税回避を取り締まる動きが活発になってきています。アメリカは、10年に外国口座税務コンプライアンス法を制定。アメリカ国外の銀行に預金口座情報などの報告を求め、富裕層の資産隠しを防ぐものです。スイスも同制度に組み込まれましたから、スイスの金融機関を使った租税回避は減っていくでしょう。

AERA  2015年9月21日号より抜粋