マラソンブームに沸く日本だが、実はレースを走る前から闘いは始まっている。

 サン、ニー、イチ、ゼロ。10月に開催される手賀沼エコマラソン(千葉県)のエントリー受け付けが始まった6月1日午後9時、埼玉県在住の市民ランナー、高橋一紀さん(48)はカウントダウンしながら、エントリーボタンをクリックした。ところが次の画面には、

「Internet Explorerではこのページは表示できません」

 の表示。愕然としながら再度「ランネット」のトップページに戻ってもう一度初めから試みるが、何度やっても同じ状況に。そのうちトップページにもたどり着けなくなった。この日は11月の湘南国際マラソン(神奈川県)のエントリー開始も重なり、アクセスが殺到してシステムがダウンしたのだ。ツイッターやフェイスブックはランナーたちの書き込みで炎上した。

「明日早いのでもう諦めます!4時間半無駄でした」
「5時間半かかってようやくエントリー完了しました!」

 騒動は朝方まで続いた。

 秋冬のマラソンシーズンに向けた大会申し込みが始まり、エントリー競争が白熱している。「ゼロ関門」と呼ばれ、エントリーのために有給休暇を取る人や、一般より申し込みやすい地元枠を利用するため、わざわざ友人宅に住民票を移す人もいるほどの過熱ぶりだ。

 先着順の大会はエントリーが集中してシステム障害が起き、トラブルがなくても数時間、早いときはわずか数分で募集が締め切られる。1997年、他に先駆けてネット上にランナーのためのポータルサイトであるランネットを開設し、現在はネットエントリーの窓口業務で9割以上のシェアがあるアールビーズ社によると、今年6月にエントリー開始日を設定した35大会のうち、21大会は初日に定員がいっぱいになったという。

 特に6月1日は、首都圏の人気大会の申し込み開始が重なり、エントリーに長時間かかった。フルマラソンを完走するより長い時間パソコンに向き合った人も。一方、抽選制の東京マラソンでは昨年、約3万人の定員に30万人以上が応募した。

 ちなみに冒頭の高橋さんは5時間粘ったものの申し込みできず、ふて寝。午前4時に目が覚めたので再挑戦したら、運よくつながったという。

「もうダメだと思っていたから、できたときは感動しました。でも先着順と言いながら、途中で接続が切断されて一からやり直しになるなんて不公平です」

 この日のシステム障害について、アールビーズ社の金城栄一取締役事業局長は、

「予想を超える21万件のアクセスがあり、システムが処理能力を超えてしまった。本来は人気大会のエントリー開始日をずらすべきだったが、見込みの甘さがあった。多くの人にご迷惑をおかけして申し訳ない」

 と陳謝し、システム増強やエントリー日の調整担当者を置くなどの対策を講じるという。

AERA 2013年8月12-19日号