柱時計にかざぐるま、数珠ネックレスに日本人形、学生服、そして顔を真っ白に塗りつぶした奇抜なメーク――映画「田園に死す」の世界から抜け出たような不可思議な面々が、東京・原宿の神宮橋に集まった。

 名づけて「白塗り集会」。中心人物は、この春から社会人として働き始めた「津野氏(つのし)」さん(22)だ。大学2年から卒業するまでの間に、最大で70人を超す大規模な集会を4回、20人前後の集会は何度も開いた。

 妖しくも美しい若者たちが原宿を練り歩く姿は、外国人や道行く人の注目を浴びた。そんな津野氏さんをはじめ、10代から20代のコアな参加者が崇拝してやまぬ“アイドル”こそ、没後30年を迎えた寺山修司だ。

 津野氏さんは中学生のとき寺山を知った。YouTubeでロックバンドBUCK-TICKにハマり、ボーカルの櫻井敦司さんの好きな映画に寺山の「田園に死す」を見つける。大好きな人の大好きなものを知りたい。そんな気持ちで取り寄せた。

「一コマ一コマが衝撃の連続でした。それまでに見たどの映画にもない世界があったから。恐ろしくて不気味なのに、すごくファンタジックで。暗くて後ろめたくて不気味なものに“美”を感じていいんだって思えた」

 寺山の映画はもちろん、彼が主宰した演劇実験室「天井棧敷」のポスターや舞台美術を手がけた横尾忠則さんらの作品をヒントに、ゴシック系、ヴィジュアル系などのテイストを織り交ぜながら、独自のセンスで白塗りを作り込んでいく。彼女たちを夢中にさせているのは、1960年代後半から70年代のアングラ文化や昭和アヴァンギャルドへのあこがれだ。

「雰囲気や見た目をまねるだけではなくて、あの頃のカルチャーを深く知りたい。自分は形だけの“アングラスイーツ”とは違うと主張したい子たちが多いと思う」(津野氏さん)

AERA 2013年6月3日号