大阪市立桜宮高校での生徒の自殺は、「指導」に対する大きな問題を投げかけた。教師の指導で生徒が自殺するなんて、と思う人も多いかもしれない。だが、「『指導死』親の会」世話人の大貫隆志さん(56)は言う。

「大人が些細だと思うことでも、教師対生徒という絶対的な力関係にある指導、複数の教員による長時間にわたる叱責(しっせき)は、時として、子どもには命を絶つほど精神的に大きな負担なのです」

 大貫さんの次男・陵平君(当時13)は、埼玉県の新座市立第二中学2年だった2000年9月、教師の指導がもとで自ら命を絶った。

 いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」(川崎市)の理事で、教育評論家の武田さち子さんは次のように話す。

「指導がきっかけで自殺をした生徒の事例を調べていくと、学校に不信感を持っている子どもが多い気がします。学校への信頼感があれば、指導を受けてもある程度納得できますが、今は学校への不信感しかない。きっかけさえあれば、どの子でも自殺する可能性があります」

 明治大学の伊藤進名誉教授(民法・教育法)は、ある指導死をめぐる裁判で出した意見書で、たとえ無意識に行ったものでも、教師の行き過ぎた指導は「『精神的いじめ行為』である」と厳しく批判した。

 ところが、こうした「精神的いじめ行為」は統計上はほとんどないことになっている。

 文科省は毎年、全国の教育委員会の報告をもとに生徒児童の自殺統計を発表しているが、95年に「教師の叱責」による中学生の自殺が1件あったのを最後に、07年度までの12年間で「教師の叱責」「教師との人間関係」による自殺はゼロ。だが、武田さんが新聞報道などから「指導死」と見られる事例を調べたところ、1963年から11年までに未遂4件を含め41例あった。

AERA 2013年2月4日号