監督第2作は「20世紀最大の英王室スキャンダル」。定説を覆す「新解釈」、傲岸不遜「マドンナ節」で話題性も十分だ。

 アメリカ人ウォリス・シンプソン夫人(1896─1986)は、イギリスのエドワード8世(エリザベス女王の伯父・1894─1972)とロンドンで出会った。当時英王室では、離婚歴のある女性との結婚は禁じられていた。1936年、エドワード8世は退位を表明し、夫人との結婚を選んだ。その結果、弟のジョージ6世が国王に就くという前代未聞の事態に。

 この「20世紀最大の英王室スキャンダル」が、歌手、女優、絵本作家、実業家、慈善家など、いくつもの顔を持つマドンナ(54)の映画監督第2作になった。「ウォリスとエドワード 英国王冠をかけた恋」。11月3日に全国公開された。

 リサーチに3年かけた。自宅の一室の壁に2人のさまざまな写真を貼り、醸し出す途方もないエネルギーに浸った。脚本の参考にしたのは、2人が交わした手紙。実物を借り、読みふけった。「手紙には人間性がにじみ出るもの。独特な愛の濃さが伝わってくる」。映画の原題は「W.E.」だが、「W」と「E」は、ウォリスとエドワードの頭文字だ。2人は決まって手紙の最後を「WE(わたしたち)」で締めくくっていた。

 映画は、第69回ゴールデン・グローブ賞主題歌賞を受賞し、第84回アカデミー賞衣装デザイン賞にノミネートされた。やはり英王室を舞台にした「英国王のスピーチ」(11)はアカデミー賞作品賞など4部門を制したが、「あの映画は、私の作品のためのウオーミングアップに過ぎない」「みなさんが私の監督作品に厳しいのは、他の分野で私が成功を収めているから」と言い放った。

 わずか35ドルを握りしめてニューヨークに出てきて以来、大胆で挑発的な言動は衰えていない。まだまだ驚かせてくれそうだ。

AERA 2012年11月12日号