今年のゴールデンウイークは、全国で多くの山岳遭難事故が発生しました。警察庁の発表によると、山岳遭難は141件(前年比37件増)で、遭難者は185人(同52人増)。記録が残っている1994年以降で最多となってしまいました。そのうち死者・行方不明者は22人(同3人減)でした。



 その背景には、登山ブームがあるのでしょう。中高年者の事故が多発しましたが、若い世代も注意する必要があります。滑落など技術的な原因から事故に遭遇する中高年とは違い、若者の場合は、Tシャツ1枚とスニーカーで入山するといった軽はずみな行為が目立ちます。毎年、何人かは下山できなくなり、警察沙汰になることもあるそうです。



 日本人で初めて8000m峰全14座完全登頂を果たしたプロ登山家の竹内洋岳氏は、登山は"想像のスポーツ"だと言います。



 「頂上まで行って、自分の足で下りてくる。ただそのために、登山家はひたすら想像をめぐらせます。無事に登頂する想像も大事ですが、うまく行かないことの想像も同じように大事です。死んでしまうという想像ができなければ、それを回避する手段も想像できません。私たち登山家は、どれだけ多くを想像できるかを競っているのです」



 書籍『登山の哲学』で、竹内さんはプロ登山家の心得を教えてくれます。プロの登山家でさえ、成功と同じくらい失敗を考えているのです。私たち素人は、もっと失敗について考えるべきではないでしょうか。写真を撮りたいからと崖の下を覗き込む、荷物は軽い方がいいからと軽装で入山する......。



 自分の欲求の前で一度立ち止まり、想像力を働かせることができたら、登山の経験値が上がったといえるでしょう。なにせ登山は"想像のスポーツ"なのですから。