ドイツの戦車(AFP/アフロ)
ドイツの戦車(AFP/アフロ)

伊勢崎:バイデン氏とプーチン氏の応酬を見て、2月23日の国連安全保障理事会で、元CIA分析官が「冷戦時代のソ連の核脅威を蘇らせるのか」と批判しました。現在、米ジャーナリストが発表した暴露記事がバイデン政権を揺るがしています。昨年9月、ロシア産天然ガスをドイツに送るパイプライン「ノルドストリーム」が爆破された事件は、欧州のロシア依存を阻止するために米国が仕組んだ秘密作戦だったという驚くべき内容です。安保理でも真相究明が進められています。

東郷:米国内の論調にも変化が起き、注目すべき意見表明がなされています。1月25日のワシントン・ポストはブリンケン国務長官へのインタビュー記事で「米国とウクライナ両政府の間では、クリミアを奪還するのは非現実的であろうとの見方が広まっている」と指摘。米有力シンクタンクのランド研究所は「すべての領土を奪還し、ロシアに戦争犯罪の賠償をさせるとのゼレンスキー氏の主張は楽観的で、あり得ない」「長期の戦争はエスカレーションの危険性と経済リスクを引き起こす」と短期終結を主張しています。

伊勢崎:停戦を手掛ける実務家の立場からすると、停戦は即時、なるべく条件をつけないでするものです。これ以上、住民の犠牲を積み重ねないためには、戦争犯罪など人権問題、領土問題はいったん棚上げしなければ交渉は前に進みません。もはや被害を受けているのはウクライナ市民だけではなく、すでに両国からの穀物輸出が滞って、アフリカをはじめ世界の飢餓問題にも直結しています。

■チャンスだった3月の停戦交渉

木村:停戦してもすぐにプーチン氏が破るだろうという見方も、停戦交渉を妨げています。

伊勢崎:僕が扱ってきた小規模の内戦でも散発的な停戦合意違反は起きてきましたが、それをさせないためにも国連が監視団を入れなければならないのです。監視団が攻撃され犠牲者が出ることも常ですが、それでも、覚悟を持ってやらなければ戦争は止まらない。

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