落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「奇跡」。
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以前このコラムでも書きましたが、9月30日に引っ越しました。引っ越し屋さんは30代と20代の男女。男性が主任と書かれたバッジをつけています。直線距離で200メートルくらいの戸建てから戸建てへの引っ越し。主任も「これならすぐ終わりますね!」と言うくらいですから、業者にとっては楽なほうの仕事なようで、3時間ほどであらかたの家具と段ボールは搬入完了。
引っ越しを機に冷蔵庫を大きくしました。この引っ越し会社はメーカーと提携して家電の販売もしていて、なにより「引っ越しのプロ」が直接搬入してくれるので安心です。数日前に営業のTさんが見積もりに来て「このお宅なら大型の冷蔵庫、十分いけます(入ります)!」とのことでした。
「ムリですねー、これ。入りません……」。冷蔵庫を前にして呟く主任。ちょっと待て。Tは太鼓判押してたぞ。「Tさんかー。またかー。あの人なー。あー。もー」。Tの過失をアピールするかのように頭を抱える主任。「台所、2階ですよね。無理やり入れると家か冷蔵庫、どちらか壊れますがいいですか?」。やだよ! ダメに決まってんだろ!「これなら入るんですけど……」とカタログを見せられましたが、前の冷蔵庫のほうがはるかにデカい。日も暮れてきたので「ちょっと考えさせてください」と、冷蔵庫を表に置いたままにしてもらい引っ越し屋さんにはお引き取り頂く。「Tさんなぁ~」「やっぱTさんですね~」とこぼしながら二人は去っていきました。暗闇に佇む冷蔵庫。ご近所さんが見たら「あ、入らなかったんだなあ……」と容易にわかるでしょう。このままだと『令和の荒井注』の異名が付いてしまう。