春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。新刊書籍『春風亭一之輔のおもしろ落語入門 おかわり!』(小学館)が絶賛発売中!
イラスト/もりいくすお
イラスト/もりいくすお

 落語家・春風亭一之輔氏が週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「奇跡」。

【今週のイラストはこちら】令和の荒井注!?

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 以前このコラムでも書きましたが、9月30日に引っ越しました。引っ越し屋さんは30代と20代の男女。男性が主任と書かれたバッジをつけています。直線距離で200メートルくらいの戸建てから戸建てへの引っ越し。主任も「これならすぐ終わりますね!」と言うくらいですから、業者にとっては楽なほうの仕事なようで、3時間ほどであらかたの家具と段ボールは搬入完了。

 引っ越しを機に冷蔵庫を大きくしました。この引っ越し会社はメーカーと提携して家電の販売もしていて、なにより「引っ越しのプロ」が直接搬入してくれるので安心です。数日前に営業のTさんが見積もりに来て「このお宅なら大型の冷蔵庫、十分いけます(入ります)!」とのことでした。

「ムリですねー、これ。入りません……」。冷蔵庫を前にして呟く主任。ちょっと待て。Tは太鼓判押してたぞ。「Tさんかー。またかー。あの人なー。あー。もー」。Tの過失をアピールするかのように頭を抱える主任。「台所、2階ですよね。無理やり入れると家か冷蔵庫、どちらか壊れますがいいですか?」。やだよ! ダメに決まってんだろ!「これなら入るんですけど……」とカタログを見せられましたが、前の冷蔵庫のほうがはるかにデカい。日も暮れてきたので「ちょっと考えさせてください」と、冷蔵庫を表に置いたままにしてもらい引っ越し屋さんにはお引き取り頂く。「Tさんなぁ~」「やっぱTさんですね~」とこぼしながら二人は去っていきました。暗闇に佇む冷蔵庫。ご近所さんが見たら「あ、入らなかったんだなあ……」と容易にわかるでしょう。このままだと『令和の荒井注』の異名が付いてしまう。

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春風亭一之輔

春風亭一之輔

春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/落語家。1978年、千葉県生まれ。得意ネタは初天神、粗忽の釘、笠碁、欠伸指南など。趣味は程をわきまえた飲酒、映画・芝居鑑賞、徒歩による散策、喫茶店めぐり、洗濯。この連載をまとめたエッセー集『いちのすけのまくら』『まくらが来りて笛を吹く』『まくらの森の満開の下』(朝日新聞出版)が絶賛発売中。ぜひ!

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