社会保障費が膨らみ続ける日本。6月3日、A~Hまで8通りのケースでシミュレーションを行う「財政検証」の結果が公表された。「一定程度、年金の安定性が保たれていると確認できました」と田村憲久厚生労働大臣は、満足そうな様子をうかがわせたが、そううまくはいかないようだ。

 現在の年金制度は、現役世代が納めた保険料を、その時々の高齢者の年金給付に充てる仕組み「賦課方式」を基本としている。その上、経済の変動などにより、年金給付の支給に支障が生じないように、過去に積み立てた積立金を活用しつつ運営している。現在の現役世代が老後を迎えるころには、将来の子供たちが支払う保険料が年金に充てられる。

 与党の「100年安心プラン」とは、厚生年金の保険料を、給料(標準報酬月額)の18.3%を上限に17年まで段階的に引き上げ、それ以上保険料が上がらないように設定し、もらえる年金は現役世代の手取り収入の50%を確保することを100年間約束する。「『積立金』を100年間取り崩しながら、税金と保険料で年金を支払うので安心」という内容。

 問題なのは、昨年末の時点で128兆円という世界最大の積立金があるから年金制度は崩壊しないといった楽観論が政治家の間に蔓延して、改革を次世代に先送りしていることだ。

「私がいちばん現実的だと思うのは『ケースH』のシナリオです。よく読むと55年度に国民年金積立金が枯渇すると書かれており、厚生年金も58年度に枯渇することになる点に注目しなければなりません」

 こう警鐘を鳴らすのは、学習院大学経済学部の鈴木亘教授。

「04年の年金改革の際、5年に1度の年金の財政検証をすれば、財政が悪化していたとしても、改革はやらなくてもいいという法律にしてしまい、政治の怠慢を招いてしまいました。12年以降の株高を勘案しても年金の将来は厳しいでしょう」(鈴木氏)

 厚労省は、将来的には年金受給者が減るので、保険料と税金で、現役世代の収入の50%の給付を保ちながら、なんとかやりくりすれば、「100年安心プラン」は維持できるとしている。それが、今回の「財政検証」の結果でもある。

「ところが、実際は積立金は毎年6兆~7兆円取り崩しているので、私の試算では40年度にも枯渇する可能性もあります」(鈴木氏)

週刊朝日 2014年7月11日号より抜粋