書評『サンカーラ この世の断片をたぐり寄せて』田口ランディ著 |AERA dot. (アエラドット)

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《ベストセラー解読 (週刊朝日)》

サンカーラ この世の断片をたぐり寄せて 田口ランディ著

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長薗安浩#ベストセラー解読

大震災を経ても、なぜ社会は変容できない?

 タイトルにあるサンカーラとは、〈この世の諸行〉を意味する。
〈私という意識の経験の蓄積、様々な印象を寄せ集めたモザイク。生きるために身につけてしまった行動や考え方の癖、感情。それらは、いつしか垢のように魂にこびりつき、精神や肉体をも歪める。そのことを認めないわけにはいかなかった〉
 たとえば、東日本大震災の発生から1年9カ月がたとうとしている今、私たちはそれ以前と何か変わっただろうか? 被災者のために物資を送り、寄付し、ボランティアに出かけるという経験は、自分を変えたのか? あるいは、福島第一原発の事故をきっかけに、自分は変わったのか?
 歴史を繙(ひもと)くまでもなく、大地震は以前にもあった。広島、長崎には米国の原子爆弾が落とされ、第五福竜丸はやはり米国の水爆実験によって被曝した。公害で海や空が汚染され、多くの人が亡くなった。海外に目をむけても、人はまあなんと同じようなことをくり返してきたかと、あらためて呆れるしかない。
 なぜだろう? なぜ私たちは、いや私は、時間が過ぎるとまた同じことをくり返してしまうのか。変化はあっても変容のない社会、そして、変容できない私。なぜ?
 田口ランディはこの問いと真正面から向きあった。過去に起きた家族内の凄惨な出来事も、義父母の看取りも、昨年来この国にうずまく事象もすべてたぐり寄せ、考え、まるで瘡蓋(かさぶた)を剥(は)いだ傷口からえぐり出すように言葉をつづった。終始、魂にこびりついた垢を落とそうと田口は問いつづけ、考えつづけた。
〈精神はほっておけば後戻りする。すぐに環境に適応し怠惰になり、道を失う。どうやら魂は、日々、鍛練しなければ筋肉と同じで衰えるのだ〉
 まったくそのとおりだ。私たちはすぐに適応を優先して、「あの日の問い」を忘れてしまう。だから今、この本が一人でも多くの日本人に読まれることを私は願う。

週刊朝日 2012年12月14日号


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