伊藤潤二さん(自画像)
伊藤潤二さん(自画像)

『富江』『うずまき』の作者として知られ、いまや日本が世界に誇るホラー漫画家となった伊藤潤二氏。「漫画のアカデミー賞」とも呼ばれる米アイズナー賞を4度も受賞し、1月からNetflixで配信されている「伊藤潤二『マニアック』」も話題だ。そんな伊藤氏が、画業35年にしてはじめて自身のルーツや作品の裏話、さらには奇想天外で唯一無二な発想法などについて明かした『不気味の穴――恐怖が生まれ出るところ』を書きあげた。ここでは、その一部を抜粋・再編集してお届けする。

【試し読み】「いやだもう!」ある日突然、自分そっくりの気球が…『伊藤潤二自選傑作集「首吊り気球」』より

伊藤潤二氏が、自らの頭の中をさらけ出した初の書籍。伊藤潤二『不気味の穴――恐怖が生まれ出るところ』>>Amazonで本の詳細を見る
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あの突拍子もないアイデアは、どこからきたのか?

 私は異常に広々とした空港に、一人でぽつんと立っていた――。

 ふと彼方の空を見ると、こちらに向かって何かが飛んでくる。近くまでやってきたところで、それが髪の長い黄土色の人形であることがわかった。人形の下にはロープがUの字に垂れていて、私の首を吊ろうとものすごいスピードで迫ってくる。命の危険を感じた私は、必死に走って逃げるのだが、ついに人形に追いつかれてしまい……、という少年のころに見た夢が、『首吊り気球』を思いついたきっかけである。

ある日突然、自分そっくりの気球が、自分を殺しに来る!? 『伊藤潤二自選傑作集「首吊り気球」』より
ある日突然、自分そっくりの気球が、自分を殺しに来る!? 『伊藤潤二自選傑作集「首吊り気球」』より

 最初は、普通の黒いゴム製の気球の下に、ロープで首を吊られた死体がぶら下がっている絵をイメージしていた。それがUFOのように空を漂っていて、街の上空に現れると、地上で不可解な事件が起こる。不吉な前兆のような存在として描こうとしたのだ。

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伊藤潤二

伊藤潤二

高校卒業後、歯科技工士の学校へ入学し、職を得るも、『月刊ハロウィン』(朝日ソノラマ)新人漫画賞「楳図かずお賞」の創設をきっかけに、楳図氏に読んでもらいたい一念で投稿。1986年、投稿作「富江」で佳作受賞。本作がデビュー作となり、代表作になる。3年後、歯科技工士を辞め、漫画家業に専念。「道のない街」「首吊り気球」「双一」シリーズ、「死びとの恋わずらい」などの名作を生みだしていく。1998年から『ビックコミックスピリッツ』(小学館)で「うずまき」の連載を開始。その後も「ギョ」や「潰談」など唯一無二の作品を発表し続け、2017年には漫画家生活30周年を迎えた。

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