統一選に合わせて、現職の府知事と大阪市長を入れ替える「クロスダブル選」という“奇手”を仕掛けた松井氏。知事、大阪市長のポストを再び押さえただけでなく、同日の府議選、大阪市議選でも大きく躍進した。自民は府議団と大阪市議団の幹事長が落選。続く、衆院大阪12区補選や堺市長選でも維新は連勝していく。

 選挙の「民意」に押される格好で、都構想をめぐって維新と激しく対立していた公明が歩み寄り、2度目となる都構想の住民投票を20年秋から冬にかけて実施することで合意。府議会と大阪市議会は維公で過半数のため、住民投票の実施は確実な情勢になった。

 統一選後、来阪した自民党本部の執行部の大物衆院議員から私はこう尋ねられた。「なんで維新は大阪でこんなに強いんですか」。この衆院議員だけではない。同じような疑問を取材先や同僚らからも何度も聞かれるようになっていた。

 いま、大阪でなにが起きているのか。なぜ、国政では存在感の薄い維新が、大阪で底堅い地盤を維持し続けることができるのか――。

 私は、首相官邸クラブの元キャップで政治取材経験の長い大阪社会部の林尚行・次長(現・政治部次長)に相談し、府庁・大阪市役所クラブのメンバーに声をかけ、そんな疑問に答えようと再取材を始めた。

 とりわけ、18年末から19年春の都構想をめぐる激しい政局の背後になにがあったのか。それを丹念に追うことで維新の政治手法に迫れるのではないか。大阪の政治取材の経験のある政治部の記者らにも応援を頼み、その取材結果をまとめたものが本書だ。

 私は今回の政局に、維新の政治手法だけでなく、維新を利用してでも憲法改正をめざす安倍政権の構図も凝縮されていると思っている。大阪の政治のみならず、安倍政権下の日本で起きた政治現象の一端を記録にとどめようと考えた。取材で見えてきた維新の「強さ」は、トップダウンの緻密な選挙戦略と、知事・大阪市長という「ツートップ」を抑えたことによる旧来型の自民党政治にも通じる「利益分配型」の政治手法だった。

 また、本書では現在議論されている都構想案や、その課題についてもまとめた。都構想は、政令指定市である大阪市を廃止し、東京23区のような特別区に再編するものだ。維新は、広域行政の「司令塔」を一本化し、府と大阪市で重なる「二重行政」を解消することで大阪はさらに成長できると主張する。だが、府も大阪市も財政が厳しい中で特別区という新たな自治体を設置すれば、住民サービスの格差や低下が生じるとの指摘も根強くある。

 都構想は大阪だけの問題ではない。日本の都市部では古くから大都市制度のあり方に関する問題がくすぶってきた。20年の秋から冬に予定される大阪市民を対象とした住民投票を前に、本書が改めて地方自治を考える一助になればと思う。(朝日新聞政治部記者・池尻和生)