刑事事件としての捜査が進行するなか、政府の対応は、容疑者が措置入院(※)を命じられていた事実を重く見て、措置入院制度の改革や、障害者施設の安全確保のための隔離という方向に進んでいるようだ。だがこの対応はテロに屈したともいえる。障害のあるなしにかかわらず、共に同じ地域やコミュニティーで生きていく共生社会という目標とは反対の方向に舵を切ったともいえる。もしそうなら、それは容疑者がある意味で望んでいた方向ではないか。

 いま私たちに求められるのは、これまで日本においてさまざまな障害者団体や個人が尽力してきた、共生という方向性を前進させることである。狂信者が恐れ憎む自由や寛容、人間性こそ、狂信者への断固たる態度になりえるのだ。(解説/慶應義塾大学教授・岡原正幸)

※自分や他人を傷つける恐れがある場合に、都道府県知事などが、本人の同意なしに指定の精神科病院に入院させること

【キーワード:優生思想】
生きる価値のある生命とない生命、優秀な生命と劣った生命とを分けて、社会国家の繁栄や質の向上のために、劣った生命を排除し減らすべきという思想。

【キーワード:ヘイトクライム】
特定の特徴(民族、宗教、性的指向、障害の有無など)をもった個人や集団への、差別や憎悪による犯罪行為(傷害・殺人など)。

※月刊ジュニアエラ 2016年10月号より

ジュニアエラ 2016年 10 月号 [雑誌]

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AERA dot.編集部
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