●警察の「本気」は頼もしいが…市民の不安は解消されず

 警察の動きは素早かった。10月の事件の翌日には、山口組総本部や神戸山口組事務所をはじめとする兵庫県内11ヵ所の組事務所に、暴力団対策法に基づく使用制限の仮命令を出す。これにより組事務所の使用は不可能となった。その効力は15日間、10月25日までである。

 だが、最初の仮命令期間中に設けられた意見聴取の場に、山口組と神戸山口組双方の関係者が姿を現さなかった。そのため、仮命令の期間が延長され今日に至っている。

 再度、山口組、神戸山口組関係者の意見聴取の場が設けられるが、これも欠席するとみられていることから、本命令となる見通しで、そうなると3ヵ月ごとの更新となる。

 暴力団対策法では、対立する暴力団組織が抗争のための謀議、指揮、連絡のほか、抗争に用いられるおそれのある凶器の製造や保管に組事務所を用いることがないと公安委員会が認めたときは、使用制限の標章を取り除かなければならない、としている。だが、現状では、両者の抗争に終止符が打たれる見込みはない。そのため、延々と組事務所の使用制限が続く見通しだ。警察としては、これを契機に山口組をはじめとする反社会的団体、暴力団の動きを封じ込めたいところだろう。

 こうした警察の動きを市民は「頼もしい」と思いつつも、一抹の不安を抱えている。あまりにも暴力団組織を追い詰めることで、その活動が地下へと潜り、結果として、抗争が激化、市民にも影響が及ぶのではないかと考える市民は少なくないのだ。とりわけ山口組総本部をはじめとする、今回使用制限となった組事務所周辺の住民たちほど、そうした不安を隠さない。総本部近くで長く暮らしているという地域住民のひとりは言う。

「あの人ら(山口組をはじめとする暴力団関係者のこと)がいいことをしようとしても、それがでけへんというのは、あの人ら(の人格)を認めへんということや。そしたら、ヤケになってなんでもありにならへんか。善意は善意として認めてもええんちゃうかな…」

 こう言うと、即座に少し声を大きくして、茶化しつつ、それでいて真顔でこう付け加えた。

「いや、今のご時世、こんなこともいうたらあかんな…。いまのカットやで!」

 この“今のご時世”という言葉は、地元小学生の間でも浸透しているようだ。

 総本部から歩いて5分程度の場所には、護国神社前公園がある。ここは毎年、子どもたちはもちろん、そのママたちも含めて、ハロウィンで「山口組さんから貰ったお菓子」の品評会が行われる場所でもある。ここにいた小学校5年生、4年生の5人グループに話を聞いた。

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「任侠」への好意が薄れ、恐怖が前面に出る市民たち