漫画家、サラリーマン、大学講師――。3足のわらじを履く下ネタギャグ漫画家、田中圭一さん。巨匠たちの作品をお下劣にパロディーした漫画『神罰』などで名を知られているが、最近では「田中圭一のペンと箸―漫画家の好物―」(ぐるなび)など、感動的なウェブ漫画も話題になっている。多様な活動をしている田中さんに、作品にかける思いや今後の展開について話を聞いた。
――「きれいな田中圭一」と評される「ペンと箸」などの感動的な漫画もあれば、下ネタ満載の「Gのサムライ 島流し童貞劇」(リイド社)といった漫画も同時に連載していますが、どのように頭を切り替えていますか?
「きれいな」とつくということは、きれいじゃないものがベースにあるということに他ならないわけで(笑)。「ペンと箸」や「うつヌケ~うつトンネルを抜けた人たち~」(文芸カドカワ/note)は取材ものですから、僕がクリエイトする部分はあまりない。「Gのサムライ」はフィクションですから、そこの違いでしょうか。確かに振れ幅が大きすぎるので、「ペンと箸」の読者が「感動しました。他の漫画も読みます」みたいなことをツイッターに書いていると、読まないでほしいなあと思うことが(笑)。
「Gのサムライ」は、「ペンと箸」と同じタイミングで単行本化したいと編集者さんから言われています。「きれいな田中圭一と、一番汚い田中圭一を一緒に書店に並べたいんだ」と言っていました。
――田中先生がウェブで連載している漫画は、SNSでの拡散力が強いですね。漫画も単なる紙の置き換えではなく、ウェブ媒体ならではの見せ方を意識していますか?
僕は最初に玩具メーカーに就職して10年、その後ゲームメーカーに5年、そしてソフトウェア会社に10年勤めました。狙ったわけではありませんが、IT系の最先端にいられたことは強かったです。漫画家の好奇心として新しい技術に関心がありますし、入ったら勉強しないと仕事にならないですからね。
今勤めているBookLiveに入った時に、スマホで読める電子漫画雑誌を作る部署に配置されて、そのノウハウを仕事の中で探りました。文字の大きさや段組、基本フルカラーだよねとか、抑えるべき画面作りがだいたいわかってきたところで、「ペンと箸」や「うつヌケ」のウェブ連載が始まりました。得意な分野なので、アイデアも出やすかった。「ペンと箸」は本当にいい具合の6ページで、ある意味ウェブコンテンツとして理想的。お昼休みに飯を食った後につらつらっと読めてしまう感じですね。
たまたま辿ってきた職種と、ウェブコンテンツの依頼が来たタイミングが良かったです。ちょうど自分が描いた面白いネタ画像などのアップでSNSのフォロワーも増えてきたところで、告知もうまくいきました。
――今後はどういった活動を行っていく予定ですか?
僕は今53歳。漫画家として今のペースで描けるのは、下手したらあと10年くらいかもしれません。残された時間の中で出せる単行本の数には、限りがあります。でもやりたいネタはもっともっともっとある。日に日に使える時間が減っていっているという感覚をすごく持っています。日々忙しくしているうちに本来描ける大事なページが1枚ずつ減っていくんだなと思うと、どれを選んでどれを諦めるか、真剣に考えないといけません。やると決めたものは、どんどんやっていきたいと思います。