小谷所長は、「仲のいい家族でも一人ひとりの考えは違って当たり前。跡継ぎへの丸投げは白紙委任状と同じで、残された家族の不和を招く可能性がある」と注意を促す。

 男性のように事業や財産管理などを委ねる場合は、「跡継ぎ以外の家族にも、何を、どのように任せたいのかをはっきりさせておくべき」と助言する。

 近年はいわゆる“おひとりさま”の相続も増えている。50歳までに一度も結婚したことのない「50歳時未婚率(生涯未婚率)」は1985年には男女とも5%に満たなかったのが、2015年には男性23.4%、女性14.1%を占めた。子どもがおらず配偶者を亡くした人も、おひとりさま同様、万が一のときにはきょうだいやおい・めいなどが相続人となる。

 妻子を早くに亡くして都内の老人ホームに暮らす80代男性は、長年にわたって紛争地域の子どもの医療支援などを行うNPO法人に寄付を続けており、弁護士に依頼してそのNPO法人に財産を遺贈するという遺言書を作成していた。

 男性が亡くなった後、遺言の内容を知らされたきょうだいは男性の遺志を尊重しようとしたが、遺産の大半が不動産や株式だったため、NPO法人から遺贈を断られてしまったという。

 一方で、首都圏在住の70代女性には結婚歴がなく、4人の兄姉はとうに他界。難治性のがんを患って亡くなる前の1年ほどはホスピス(緩和ケア病棟)で過ごし、「世話になったホスピスを運営する医療法人に全財産を遺贈する」という遺言書をしたためていた。

 しかし、この遺言が実行されることはなかった。学習塾を経営していた女性の遺産は億単位に上り、20年近く音信不通だっためいが医療法人に掛け合って遺贈を放棄させた。

「寄付額が大きいと、相続人から『待った』がかかることは少なくない」と小谷所長。遺贈を受ける側にも「ご親族がいるのにいいのか」という遠慮があって強くは出られず、結果として故人の遺志は反故にされてしまう。

 財産の遺贈を希望するなら、生前から遺贈先だけではなく推定相続人のきょうだいやおい・めいにも自分の気持ちを伝え、同意を得ておく必要があるという。

週刊朝日  2020年5月22日号より抜粋