休館前に行われた、映像作品「エゴオブスクラ」の、レクチャーパフォーマンス。映像は「ポートレイト(女優)/駒場のマリリン」の一場面(撮影/木奥惠三)
休館前に行われた、映像作品「エゴオブスクラ」の、レクチャーパフォーマンス。映像は「ポートレイト(女優)/駒場のマリリン」の一場面(撮影/木奥惠三)
森村さんの初期の代表作である「肖像(双子)」(左)と、30年後に手がけた「モデルヌ・オランピア」(右)。いずれもマネの「オランピア」を題材にしている(撮影/木奥惠三)
森村さんの初期の代表作である「肖像(双子)」(左)と、30年後に手がけた「モデルヌ・オランピア」(右)。いずれもマネの「オランピア」を題材にしている(撮影/木奥惠三)
布地に墨で森村さんが書いた「マニフェスト(烈火の季節)」。会場にはさまざまな言葉も展示されている(撮影/木奥惠三)
布地に墨で森村さんが書いた「マニフェスト(烈火の季節)」。会場にはさまざまな言葉も展示されている(撮影/木奥惠三)

 美術家・森村泰昌が原美術館で開催した展覧会のテーマは「さまよえるニッポンの私」だ。観覧者からも好評の展示だったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、臨時休館中。会期を7月12日まで延長し、再開を目指している。AERA 2020年6月1日号に掲載された記事で、その独特な世界観の魅力について紹介する。

【写真】森村さんの代表作「肖像(双子)」と「モデルヌ・オランピア」

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 今回の展示は、昨年出版した本『自画像のゆくえ』とリンクしているという。

「作品はそれぞれ独立して作ってきたのですが、今、振り返ってみると、つじつまが合っているというか、作品同士の意外な流れが見えてくる。編集しなおすことができるのです」

 本展のために再編集された映像作品「エゴオブスクラ」を通じて、森村さんは日本の近現代史に言及してゆく。約50分続く「エゴオブスクラ」には、日本人にとって歴史的なアイコンである昭和天皇とダグラス・マッカーサー、あるいはマリリン・モンローや三島由紀夫などに扮した森村さんが登場する。

「映像作品では自分自身で語りを入れていますが、この『語り』は、今日において、とても大切だと考えています。私はセルフポートレートを作り続けてきましたが、身体を使って出す『声』は大事な要素だからです。まず台本を作り、どう語るかを主に考えて、あとから映像を作っていきました」

 映像作品には、森村さんの両親が営んでいた日本茶の販売店や町並みも映る。両親の戦後史とそこに生まれた自身のルーツまでが作品の一部となっているのだ。

 戦後日本の復興を印象づけた、前回の東京オリンピックから56年を経た2020年。再び東京でオリンピックが開かれるこの年にこそ、森村さんは「私」とは何かを問いかけたかったという。

 だが、新型コロナウイルスの感染拡大により、東京五輪・パラリンピックは延期となり、美術の現場にもさまざまな影響が出ている。

 今回の「エゴオブスクラ東京2020」展は、2月に休館した後、3月に一時再開している。その際には、館内のあちこちにある窓を開けることで「風通しのいい展示室」という環境を作った。もとは個人の邸宅だった原美術館だからこそ、可能だった対応だ。

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