薗部さんの5月分の給与明細。差引支給額がマイナス3万6370円になっている
薗部さんの5月分の給与明細。差引支給額がマイナス3万6370円になっている

 東京都内の保育園で働く川上恵子さん(仮名・50代)は突然、園長解任を言い渡された。本社勤務ではひたすら作文を書かされる“飼い殺し”の日々。きっかけは新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言だ。内閣府は人件費を含む運営費を通常どおり給付する特例措置をとっていたにもかかわらず、保育園運営会社Xは「シフト外し」を指示。それに逆らった恵子さんが目を付けられ、パワハラ左遷につながった。恵子さんはその後、労働組合「介護・保育ユニオン」に加入し、全パート社員の休業補償の満額支給を勝ち取ったが、そうした“保育士たちの逆襲”が相次いでいる。ジャーナリストの小林美希氏がその実態を明らかにする。

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 恵子さんだけでなく、これまで泣き寝入りしがちだった保育士たちがコロナを機に立ち上がり、労働組合に入るなどして闘い始めている。

 6月末、東京都内でY社が運営する認可保育園で5人の保育士が退職した。そのうちの一人、薗部京子さん(仮名・30代)は、コロナ禍の中で自宅待機を命じられ、正社員だったが5月の出勤日がゼロで無給になった。住民税や社会保険料の自己負担分で、マイナス3万6370円の給与明細を手にしたショックは大きかった。

 会社の言い分は、「出勤した者との公平性を図るため、休業補償は一切しない」というもの。6月の給与は、会社側が「社長のご厚意で」といって無断で年次有給休暇を使った。

 矛盾を感じた京子さんは保育士数人で手分けして、区役所や労働基準監督署などに相談。それを知った会社は犯人捜しをして保育士を本社に呼びつけると「名誉毀損に値する。それなりの処遇を決める」と、パワハラ発言で圧力をかけ、同席した園長も「いつまで(園に)来るの」と、退職を強要するかのような発言をした。

 区役所への通報を疑われた京子さんも本社に呼ばれたため、「この会社で働く意味はない」と退職した。取材内容についてY社に取材を申し込むと「全て事実ではありません」との回答だった。

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