オンライン会見に臨んだNTTの澤田純社長(左)とドコモの吉澤和弘社長。NTTへの反骨心でドコモを成長させてきたと言われる吉澤氏の心中は/9月29日 (c)朝日新聞社
オンライン会見に臨んだNTTの澤田純社長(左)とドコモの吉澤和弘社長。NTTへの反骨心でドコモを成長させてきたと言われる吉澤氏の心中は/9月29日 (c)朝日新聞社
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AERA 2020年10月12日号より
AERA 2020年10月12日号より

 菅首相の「料金の値下げ要求」をきっかけに、NTTがドコモを完全子会社化することが決まった。通信業界からは、この動きを悔しがる声も上がっている。AERA 2020年10月12日号では、再編を迫られる通信業界を取材した。

【図を見る】NTT民営化後の通信業界では新規参入と再編が繰り返されてきた

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「携帯電話料金は高すぎる。4割値下げできる余地がある」

 菅義偉首相の発言が、通信業界再編の引き金を引いた。9月29日、NTTが4兆円超を投じNTTドコモを完全子会社化すると発表したのだ。

 2018年から、菅官房長官(当時)は携帯業界に値下げを迫ってきた。官邸が、今も3割の株を握るNTTに「ドコモに値下げさせろ」と圧力をかけても、ドコモは「他の株主価値を毀損する」と首を縦に振らなかった。しかし完全子会社化されれば、NTTと官邸の意向を聞かざるを得なくなる。

 NTTの澤田純社長は「値下げと完全子会社化は独立した事象。だが、完全子会社化によって財務基盤が整い、結果として値下げが可能になる」という。

 完全子会社化はまさに携帯電話料金値下げの最終手段だ。12月には、NTT副社長からドコモ副社長に移ったばかりの井伊基之氏が社長に昇格する。このタイミングで値下げが実現する可能性もあり、そうなれば菅首相の自民党総裁選出馬時の公約は果たされることになる。

 通信会社幹部は「値下げが選挙の道具にされているのが納得がいかない」と悔しがるが、ドコモが値下げに踏み切ることで公約が達成されれば、解散総選挙が一気に現実味を帯びてくる。

 今回の完全子会社化で危機感を募らせるのがKDDIとソフトバンクだ。ドコモが値下げをすれば、対抗せざるを得ない。

 海外であれば、まずは独占禁止法などの観点から子会社化が妥当かどうかの検証がされるはずだ。KDDIとソフトバンクは「NTTの経営の在り方は電気通信市場全体の公正競争の観点から議論、検証されるべき」とコメントし、警鐘を鳴らした。だが公正取引委員会の菅久修一事務総長は「企業結合規制の観点で問題があるとは考えにくい」と容認する姿勢を示す。

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