綿矢りさの小説『私をくいとめて』を、大九明子監督が映画化した。ヒロインを演じたのはのんだ。脳内の相談役Aと平和に暮らしていたが、ある日恋に落ちることになる。のん、大九明子、綿矢りさの3人が語り合った。AERA 2020年12月14日号から。
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31歳の会社員、みつ子(のん)は、おひとりさまライフを満喫中。楽しく生きられるのは、脳内に頼れる相談相手、Aがいるからだ。
綿矢りさ(以下、綿矢):Aのような存在は、私のなかにもいるのですが、みつ子のAは少し違って、彼女の「理性」のような存在。みつ子を叱咤激励するような気持ちで描いていました。
大九明子(以下、大九):小説を読んだときに、みつ子がAのことを他人事のように語っているのが面白くて、そこは丁寧に描きたいと思いました。Aはみつ子の理性ではもちろんあるのですが、みつ子が認めている別人格として描いていこう、と。とくにお互いを傷つけ合うシーンは、徹底して、普段は他人には言えない言葉をぶつけ合おうと思っていました。
「本当は言いたかったけれど、そのときは言えなかった言葉」というものが、私のなかにもあって、雨露のようにたまっている。そうした言葉は作品のなかに忍ばせています。特に綿矢文学には、それを忍ばせやすい。洗練された切れ味のいい言葉は、読者の誰もが自分の言葉のように感じられるもので、そこに感情をのせることで、気持ちを吐き出せるようになるんです。なので、綿矢さんの作品を映画化するときは、主人公が小説よりもちょっと乱暴になってしまっているかもしれないですね。
■価値観は譲れない
綿矢:確かに、威勢がよくなっているかもしれないですね。今回はのんさんが演じてくださったことで、そこにイノセントな雰囲気が加わり、みつ子がより魅力的になった気がします。
のん:みつ子を演じるにあたり、監督にいくつか質問をしてみたんです。そのなかで、一つ手がかりになったのが年齢に関するものでした。みつ子は30歳になる前は焦っていたけれど、いざ超えてみるとなんてことなくて、なんてことのない境地でぬるま湯につかって楽しんでいたら、久しぶりの恋で慌てている、といったことを監督がおっしゃっていて。その言葉を聞いて、「そういうことなんだ」と。