生活を支えてくれている人たちと、私たちはもっと心の距離を縮める必要がある。それが、資本主義が持っている負の部分を可視化していくことにつながると思うんです。
内田:気になるのは、世界の若者たちが気候変動問題や格差の解消を求めて積極的に声を上げているのに、日本の若者には動きが見えないことです。11月の世論調査では内閣支持率が一番高かったのは18歳~29歳の年齢層で、支持率80%でした。日本では若いほど現状肯定的という例外的な現象が起きています。
斎藤:気候変動の影響を受けるのは、今後さらに進む地球温暖化の地球を生きなければならない若い世代なのですが……。気候変動の問題では、スウェーデンのグレタ・トゥンベリさん(17)が注目され、彼女たちの活動の影響で欧州では気候変動問題の議論が大きく前進しました。
内田:日本の若い人たちも菅政権を熱狂的に支持しているわけではないと思います。ただ、自分一人が行動することで社会が変わるはずもないという無力感に蝕まれていて、現状肯定以外の選択肢がなくなっている。
斎藤:人新世の時代になっても、いまだに日本人は、自分は勝ち組に残れると思っている。もっとも、こう考えるのは若い人だけではありませんが……。
内田:行動のきっかけになるのは「自分がやらなければ、誰がやる」というおのれの現実変成力についてのいささか妄想的な評価です。自分の運命と世界の運命はリンクしているという現実感覚がないと人はなかなか動き始めることができない。
気候変動に対する運動も、先人から受け継いだ地球環境を汚し、傷つけたかたちで後続世代に手渡すことは許されないという責任感にドライブされている。でも、そういう使命感や責任巻は「個人の行動から世界が変わることがある」という期待がないと生まれてこない。
かつては、血縁共同体や地縁共同体のような中間共同体が個人と社会を「つなぐ」装置として機能していました。だから、個人の働きが中間共同体を通じて社会的な広がりを持つということがあり得た。でも、中間共同体が解体し、市民が原子化したことで個人の無力感が深まり、それが社会的な行動を始める意欲を殺いでいるのだと思います。